高齢者施設のコロナ対策、鬱や認知機能低下などの代償も

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鬱と体重減少


この調査の対象になったのは、2020年3月から7月にかけて、コネチカット州の224の介護施設に長期入所していたおよそ1万4000人だ。調査期間の4カ月にわたって行われた、入居者に関する毎週の評価結果を分析し、パンデミック前の入居者の状態と比較した。比較対照のためには、入居者の特性と評価結果を、2017年から2019年の同時期に同じ施設に入居していた人たちのそれと比較した。

その結果、パンデミック前と比べて鬱が15%増加していたほか、「大幅な体重減少」にいたっては150%という圧倒的な増加が見られたことがわかった。当然のことながら、そうした健康悪化の大半は、新型コロナウイルスに感染した入居者で起きていたが、感染していなかった入居者も、少なからぬ割合を占めていた。

もうひとつ、衝撃的な知見がある。そうした悪い結果が増加した軌跡は、パンデミックが広がった経緯をぴったりと追いかけており、4月中旬から5月中旬までに最も大きく増加していたのだ。パンデミックがピークを迎えたときに、鬱、体重減少などのほとんどの症状の増加もピークに達していた。

良いニュース


「認知能力の低下」の加速パターンも同じように厄介だが、これについては若干の良いニュースもある。そうした悪化は時間の経過とともにおおむね薄れ、たとえば、施設が限定的な屋外訪問を認め始めた5月中旬までに、記憶障害はパンデミック前の水準に戻った。

そうした悪い結果の一部は、介護施設が直面していた、人員確保に関する大きな課題に起因している可能性もある。しかし、一般に介護職員の不足と結びつけられているその他の健康問題は、パンデミック前の水準を超えるほどには増加していなかった。たとえば、質の悪い介護の結果としてしばしば生じる転倒、尿路感染症、重度の床ずれについては、パンデミック発生以前とピーク時でほとんど差がなかった。

この研究では、たくさんの興味深い重要な問題が提起されている。たとえば、この研究で介護施設が焦点となったのは、入居者の定期的な評価を実施する必要があるからだ。つまりこうした施設は、研究者にとってデータの宝庫なのだ。しかし、自宅や、介護つきグループホームなどの集合住宅で暮らす体の弱った高齢者は、コロナ禍において同様の健康状態の悪化に苦しんでいるのだろうか? 施設によって、どの程度のばらつきがあるのか? そして、教訓にできるパターンはあるのだろうか?

新型コロナウイルスに感染しなかった高齢者における健康面でのパンデミックの影響については、コネチカット州で行われたこの調査を皮切りに、多くの調査が実施される可能性が高い。そして、そこから学べることは数多くあるだろう。だが、こうした知見が裏づけているのは、入居者の家族や職員が数カ月前から知っていたことだ──新型コロナウイルス感染症は、感染そのものを免れた人にとってもおそろしい病気なのだ。

そして、政府や施設の運営者は、重要な教訓を得られるかもしれない。感染抑制がきわめて重要であるのは確かだが、それがすべてではない。生活の質も重要なのだ。

翻訳=梅田智世/ガリレオ

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