アマゾンが出資するデリバルーの上場は、企業価値104億ドル(約1兆1500億円)の大型上場として注目を集めたが、今週初めに同社は、公募価格を当初のレンジの下限の1株390ペンスに引き下げていた。
デリバルーの株価は31日の午前中に一時、276ペンスまで急落し、26億ドルもの価値が吹き飛んだ。デリバルーのIPOは、ロンドン市場において近年最悪のパフォーマンスを記録した事例の一つとなった。
デリバルーは当初、想定レンジの上限の企業価値120億ドルでIPOを目指していたが、投資家たちは、同社の創業者兼CEOのウィリアム・シューに与えられる議決権が多すぎることや、自営業者であるドライバーの扱いについて、懸念を示していた。
今回の不本意なIPOは、英国政府がロンドンを、スタートアップの資金調達に適した拠点として後押しする試みに水を差すことになりそうだ。
デリバルーの上場は、ロンドン市場において2011年のグレンコアの上場以来で最大のIPOとして注目された。英国発のハイテク企業のIPOは、投資家にとって魅力的なものになるはずだったが、Aberdeen StandardやAviva Investors、LGIMなどの英国最大の機関投資家らは、この上場への参加を見送っていた。
背景には、英国政府がギグワーカーに依存するビジネスモデルに神経を尖らせていることが挙げられる。英国独立労働組合は、デリバルーが配達員の時給が10ポンドであると主張しているにもかかわらず、実際はわずか2ポンドだと指摘している。
欧州では労働者の権利に関する当局の調査が行われており、デリバルーの目論見書にも労働問題が大きな懸念事項として記載されていた。ウーバーは、英国の最高裁が2月にタクシー運転手を契約社員ではなく従業員とする判決を下した後、最低賃金や休日出勤手当など追加の支出を余儀なくされている。
投資家からは、さらに、デリバルーがレストラン側から最大30%の手数料を得ていることに対する抗議や、競合のウーバーイーツやJust Eat Takewayとの熾烈な競争の中で、どのように黒字化するのかを懸念する声もあがっている。
しかし、様々な懸念の中で、なんとか上場を果たしたデリバルー創業者の米国人のシューが保有する6.1%の株式は、6億5500万ドルの価値を持つことになった。元投資銀行家のシューは、2013年にロンドンの自宅アパートでデリバルーを立ち上げ、現在は13カ国で2000人のスタッフを擁するまでに成長させた。