だからこそ、NARISAWAを開く際には、厨房から全ての席が見える10テーブルに絞った。さらに、寿司屋のカウンターと同じように「1対1」でゲストに向き合うように心がけている。席に着くと、ガラスに「NARISAWA」と刻印されたショープレートが置かれているのに気づくが、これも「ここに私の心があり、あなたと向き合っています」という思いの現れだ。
それは、言葉だけのものではない。過去にゲストが食べた料理のデータは全て蓄積されており、毎日厨房に立つ成澤は、1組1組の好みにあわせたメニュー作りに心を砕く。時には10テーブル全てで違う料理を出すこともあるという。
おにぎりを作る成澤氏(左)とWAGYUMAFIAの浜田寿人氏(右)
現在、サービスは長男が統括するが、「些細な一言も、ゲストの言葉はシェフにすぐ伝えます」という。そんな「あなただけ」に向き合った料理は、外国人旅行者がいなくなったコロナ禍の現在も、多くの日本人ゲストに愛されている。客層は20代から80代までと幅広いく、「今では月に何度も来店されるリピーター様もいる」という。
ひとりひとりと向き合うチームづくり
飲食業界においては、以前からスタッフ教育が大きな課題だった。成澤が修業した1980年代から90年代は、まだ厳しいスパルタ式の厨房がほとんどだったが、今それでは若い人はついて来ない。指導の際に心がけているのは、やはり「ひとりひとりの個性を見る」こと。「きめ細く指示した方が良いのか、信頼して任せた方が伸びるタイプなのか。また、自然に伸びて来る部分もあるので、待つことも重要」だという。
厨房には約10人がいるが、通常のように「スーシェフ」や「部門シェフ」のようなピラミッド型の組織ではなく、全員が「成澤のアシスタント」というフラットな関係性で、得意な分野を見極めて配置する。
スタッフ選びにおいては、キャリアよりも、素直さや嘘をつかないことを重視している。専門学校を卒業後すぐに入るスタッフも少なくない。そのスタッフを、「3年で一人前にする」のが成澤の目標だ。そのため、センスがよければ、年齢、キャリア、国籍に関わらず、どんどん仕事を任せる。逆に、「年齢やキャリアが下のスタッフに抜かされることも当然ある」過酷な競争社会でもある。