名店「NARISAWA」のシェフに聞く、強いチームの作り方

NARISAWA 成澤由浩シェフ


開業から18年、独立など様々な理由で店を去るスタッフを見送ってきた。どんな業界でも離職はチームに影響を与えるが、やみくもに店舗を拡大することなく、カバーできる席数にしているからこそ、本人の意思を尊重し、快く送り出せる。

もちろん、「今は困るな」という時期がないわけではない。「でも、コミュニケーションが取れていれば、スタッフもこちらの状況を理解してくれる」という。

料理は最高のコミュニケーション


労働時間管理も厳しい昨今は、仕事終わりに飲みに行くことも難しく、コミュニケーションがとりづらい時代と言える。そんななかで、成澤が気持ちを伝え、ひとりひとりとの関係性を築くのは、やはり料理が媒介となる。

どんなに忙しくても、まかないはスタッフも巻き込みながら一緒に作る。それは、「料理は人に気持ちを伝える方法」ことの体現であり、野菜の皮や切れ端まで無駄なく使い、おいしく健康的に仕上げることで、自らの哲学「地球も人も健康になる料理」を理解してもらうことにもなる。

訪れる外国人の研修生にも、「質問には全部答えますし、レシピも全部見せます」という。「今はネットで材料や盛り付けはすぐに見られるのに、わざわざ来てくれているのだから、写真では見えないNARISAWAの精神を正しく知ってもらい、自分のものにしてもらいたいのです。私は過去を振り返りません。その時にある全部を教えるからこそ、前に進めるのです」



「世界で最も影響力のあるシェフ」という称号から華やかに見られやすいが、朝は皆と一緒の時間に厨房に入り、片付けや掃除も一緒に行う。そこにはいつも、「思いを伝えるには、自分が手を動かさなくては」という一貫した哲学がある。

レストランで出す料理も、おにぎりも、まかないも。形は変われど、その思いの深さは変わらない。「相手を思いやり、思いを伝える料理」それは、学校帰りの成澤少年が父の店で見たのと同じ、究極のコミュニケーションなのだろう。

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文=仲山今日子

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