名店「NARISAWA」のシェフに聞く、強いチームの作り方

NARISAWA 成澤由浩シェフ

東京・青山の一等地、扉を開ければ、端正なレセプション、そして白を基調としたゆったりとしたダイニングエリアが広がる。2003年にオープンしたNARISAWAは、「土のスープ」「水のサラダ」など、その革新的な料理で美食家たちの舌と目を驚かせてきた。

シェフの成澤由浩は、2010年に世界のトップシェフが集う料理イベント「マドリッド・フュージョン」で「世界で最も影響力のあるシェフ」に選出。自らの料理を「イノベーティブ里山キュイジーヌ」と定め、料理を通して、人の暮らしと自然がゆるやかに溶け合う、サステナブルな里山の暮らしの知恵を皿の上に表現している。

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シグネチャーの「里山の風景・森のエッセンス」は、乳酸発酵させたペーストの上に、里山に暮らす方々が摘み取った季節の野草が飾られている。杉とナラの木から抽出したエッセンスを添えて

そんな成澤が、この2月から、日本の上質な和牛を世界に広める活動を続けている和牛卸・レストラングループ「WAGYUMAFIA」と共に、「温かい思いを届けたい」と医療従事者におにぎりを届ける活動を開始。世界のトップシェフたちも自国の食材でおにぎりを作り、#onigiriforlove のハッシュタグと共にSNSに投稿するなど、共感の輪が広がっている。

おにぎりは、水と米があれば作れる、シンプルな料理だ。しかしなぜ、おにぎりなのか。それは、2013年に「アジアのベストレストラン50」でNo.1となってから連続でトップ10に入り続ける「強いチーム」作りのベースでもある、成澤の哲学に基づいている。

「おにぎりは、外にいる『誰かのため』の料理。火傷しそうに熱いご飯で握るのも、相手への思いがなければできないこと。これは、食べる人への思いが込められた、究極の形なのです」。「相手への思い」、それが成澤の根幹にある。

楽しむ人がいてこその「文化」


愛知県出身の成澤は、祖父が和菓子職人、父がパン職人として成功している。学校から帰ると、大勢の人たちが父の作ったパンやお菓子を食べているのを見て育った。「みんなが幸せそうに過ごしている空気が大好きだった。自分も人を幸せにする場所を作りたい」それが、料理人を目指した原点だった。

キャリアを歩み出してから、フランスやスイスなどヨーロッパの名店で8年間修業をしたが、文化を知りたいと足を運んだオペラやバレエなどでも、目がいくのは舞台の上ではなく「訪れた人がどうやってその場を楽しんでいるか」だった。楽しむ人がいてこそ、文化がある。そのためには、ゲストひとりひとりの好みに合わせた料理とサービスが大切だ。そう、思い続けてきた。
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文=仲山今日子

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