オンライン授業で味わった孤立感 大学教育の未来は?|#U30と考える

連載「U30と考えるソーシャルグッド」 ゲストは、熊本大学の鈴木克明教授


NYNJ三村:アメリカでは質の低いオンライン授業が原因で学生が大学に対して集団訴訟を起こしています。日本でも、授業料減額などを求めて学生たちの署名活動が行われていました。この点について、私たち学生が当事者として主体的にできることがあればヒントを教えてください。

鈴木:なかなか難問ですね(笑)学費の減額が本当に皆さんのためになるのか疑問です。例えば、うちみたいに全部オンラインでやっている大学院も普通の通学制の大学院と同じ学費をとっているわけです。それは、同じ質を提供しているから。学びを止めないために、むしろ授業の質をちゃんと上げることについて要求した方が良いのではないでしょうか。

日本の大学教育はどこへ向かうのか



今後も大学でオンライン授業が活用されるだろうか。そのために必要な視点は? (Shutterstock)

NO YOUTH NO JAPAN続木明佳(以下、NYNJ続木):ウィズコロナの時代に、大学はどのようにオンライン授業を活用すべきだと思いますか。

鈴木:せっかく入学した大学なんだから、まともな大学生活を送りたいと思うのは当然のことだと思います。もっと自分を高めたいと思うならば、皆さんからもそのために必要なことを要求することが大事。オンデマンド授業など今までできないと思われていたことができるとわかってしまったのだから、大学が元のスタイルに戻らないように学生が訴えていくべきだと思います。

NYNJ続木:これからの日本の大学教育の未来像についてどうお考えですか。

鈴木:文科省が必須科目の撤廃など規制緩和をして、カリキュラムについて大学側に創意工夫を求めました。大学の裁量が大きくなって、多くの大学が潰れると言われていたのですが、結構生き延びているんです。それはなぜかというと、教育方針をきちんと定めず、授業の質が低かろうが、大学に行きたい人がまだいるから。日本のある意味社会の歪みなんだけれど、大卒という学歴を持っていないと辛いわけですよね。

これからは、社会人になってからフルタイムで働きながら大学に行く人も増えていくでしょう。そう考えると、現状の対面授業だけでは限界がある。一方、コロナ禍にキャンパスに通える環境はすごく恵まれていることに気づいたと思います。今後日本の大学でオンライン授業が定着するかは分かりませんが、その需要は高まっています。そこに大学側が勝機を見出すか、注目しています。

取材を終えて


日本全国の大学がオンライン授業を取り入れてから、約1年が経ちました。この1年の間に、大学側も学生側も多くの経験と教訓を得たと思います。「大学に行けない」「友達に会いたい」と嘆くばかりでしたが、コロナ禍という非常事態だからこそ、オンライン授業を通じて日本の大学教育への考え方が変わるチャンスだと捉えることができました。状況が一変し、大きな影響を受けたのは事実ですが、志望して勉強し入学したのも、学費を払って通っているのも自分自身。そもそも何のために大学に行くのか、自分たちが大学に求めていることは何か、学生自身が見つめ直し、自ら要求することが大切だと感じました。日本の大学教育の未来をより良いものにするために、当事者である大学生が主体的に声を上げていきたいです。


鈴木克明◎1959年生まれ。Ph.D.(フロリダ州立大学教授システム学専攻)。日本教育工学会監事・第8代会長(2017-2021)、教育システム情報学会顧問、日本教育メディア学会理事・第7期会長(2012-2015)、日本医療教授システム学会副代表理事、日本イーラーニングコンソシアム名誉会員など。主著に「学習設計マニュアル:『おとな』になるためのインストラクショナルデザイン(共編著)」、「教材設計マニュアル:独学を支援するために」、「教育工学を始めよう(共訳・解説)」などがある。


連載:「U30と考えるソーシャルグッド」
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文=三村紗葵(NO YOUTH NO JAPAN)

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