起業家がスターシェフに聞く、東京と仕事とレストランビジネス

ダニエル・カルバート(左)と岩瀬大輔(右)


──フライドチキンやミルフィーユなど、それらのシグニチャーは東京でどれぐらいキープする予定ですか?

維持したい自分のスタイルはありますが、全く同じものをつくるつもりはないですね。それをアップデートしたものか、新しいトレンドを生み出したい。どこでもあるようなものはやりたくないです。

香港にいたときも、他のお店が真似してローストチキンを出し始めたら、「それなら僕らは違うことをするよ」というスタンスでした。周りがどうかは関係ないというか、「catch me if you can(追いつけるものならどうぞ)」という感じです。

──「アジアのベストレストラン50」で同じ香港からランクインしている他のシェフとはどんな関係ですか?

小さなマーケットなのでみな友達です。今年1位の「The Chairman」のダニー・イップはすごく仲がいいし、17位「Neighborhood」のデビッド・ライはメンターのような存在。彼は僕が香港の文化や顧客の特性を理解するのをサポートしてくれました。

デビッドは、食材をオーダーに応じて料理する人で、僕が好きな「Le Bristol」のアプローチを思い出します。いつも斬新なことを探していて、彼の店で食事をするのはとても刺激になります。

いつか京都で小さなワインバーを


──東京で食べ歩きをしていて感じること、驚くことはありますか?

やはり季節感とテクニックが素晴らしいです。ホスピタリティも他の国と異なります。「おもてなし」という言葉は、西洋人がやみくもに使っているので僕は言いたくないのですが、西洋のホスピタリティは「寛大さ(generosity)」で、日本は「思いやり(thoughtfulness)」なんだなと。そして、それが東京で目指すべき姿だと思います。

──東京はミシュランの星が世界で最も多い、競争の厳しい街。ここで、どんな挑戦をしたいですか?

香港ではローカライズがうまくいったので、それはやりたいと思っています。現地の要素を取り入れ、それを中華的にするのでなく、フランス料理に統合させました。日本の古代米も使ったりしたのですが、例えば東京ではそれをまた違う方法で取り入れてみたいですね。この街で、たくさんコミュニケーションをとりながら考えていきたいです。

──日本の尊敬しているお店やシェフを挙げるとしたら?

たくさんありすぎて(笑)。最近行ったところでは、「エスキス」(フランス料理)には衝撃を受けたし、「虎白」(日本料理)は季節の表現が見事で、毎月通って全シーズン食してみたいと思っています。寿司では、かつて「香港鮨さいとう」を立ち上げた小林(郁哉)さんの「3110NZ」が素晴らしくて何度も行っています。

外食に関して、僕はただ食べに行くというより、シェフたちと個人的な関係を築けるようになりたい。料理の説明を聞いたり、食材の話をしたりしながら学びたいと思っています。



──いずれリタイアしたら、京都の古民家で小さなワインバーをしたいのだとか。そのアイデアはどこからきたのですか?

僕はファインダイニングも好きですが、食べるのもつくるのも、本当に好きなのはカジュアルな料理。それにいいワインを合わせるのが最高です。大切な人たちそんな食事の時間を共にする。それこそがラグジュアリーなのではないかと。

お店は、バーシートと少しのテーブルがあって、20-25人入れるぐらいのイメージ。僕は料理しないで、その場所で料理をしたいという若者に場所を提供するような、キュレーターみたいな役割を思い描いています。

編集=鈴木奈央 写真=小田駿一

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