起業家がスターシェフに聞く、東京と仕事とレストランビジネス

ダニエル・カルバート(左)と岩瀬大輔(右)


──料理はクリエイティブなことですが、店においては経営やマネジメントも重要です。「Per Se」でキッチンの運営を学んだと言っていましたが、詳しく聞かせてもらえますか?

そうですね。星付き、かつ大規模なお店は特に、全てを自分で料理するわけにもいかないし、チェックする時間もなかったりする。だから、どうしたら自分のやりたいことを再現してもらえるか、どう教えたらいいか、いかに権限移譲をしていくか、オペレーションの力を身につけました。

──ベンチャー業界のバズワードに“スケーラビリティ”がありますが、それに似たものを感じます。ビジネスを拡張させるための仕組みをきちんと整えて、大規模でも対応できる体制を作るということですね。

まさに。レストランの世界で、そのシェフがいないから質が落ちるというのはあってはならないこと。以前、僕がいない日に食事に来てくれた友人が、その夜が微妙だったからと、もう来なくなったことがありました。その状態では、店の拡大や多店舗経営はまず無理です。

Per Seに関しては、マネージャー、スーシェフ、ヘッドシェフなど、組織の体制と教育が徹底していて、クオリティが保たれていました。資料化も大きいですね。一度つくったレシピは記録しておいて、次はそれをベースにより良いものにしていくんです。

僕個人としては、できるだけ現場にいるようにしています。そこで、例えばソースの量の調整をするときには、その都度計りを使って、次からスタッフが自分でできるようにする。僕は感覚でできるけれど、全員がそうできるとは限らないので。



──どのレストランも、そういう資料化や共有をしているものですか? 香港でヘッドを務めた「Belon」ではどうしてましたか? 

全ての店ではやっていないと思うけれど、「Le Bristol」(パリの3つ星)もキッチンにiPadがあって、各自それでレシピを検索して、プリントして使っていました。これもスケーラビリティの話。毎日メニューを変えるようならこういう効率化は大事なことです。

Belonでも同じようにやっていました。確かにポケットにノートを入れて……という方法より効率的なんですが、僕は自分の手書きのメモのほうが理解しやすかったりするので、それもまだ使っています。

新しいものを生み出したい


──2016年に香港へ。初のアジア圏で、香港のフードシーンはどう見ていましたか?

香港はいいレストランは多いけど、中華料理を除いて、本当に素晴らしいレストランが少なくて、僕自身もあまり行くことがなかったです。ヨーロッパ出身の人の舌を満足させるのはもちろん、地元の人も楽しめるレストランがあるべきだと思いました。僕の周りでも、食は香港でなく、東京で楽しむという人が多かったです。

──Belonを始めるとき、“ネオビストロ”のようなコンセプトは固まっていたのですか? また、シグニチャーはどう生み出されたのでしょう?

“ネオビストロ”は香港にすでにあったコンセプトなのでやりたくなく、違うことを考えました。それに、ビストロにしては高すぎたから(笑)。その頃、香港におけるフレンチは、ホテル内にあって、ソムリエが5人いて、白いクロスのテーブルで……みたいなイメージだったので、それと同じクオリティのものをよりカジュアルに食べられる店にしようと思いました。シグニチャーは、ゼロから試行錯誤して、何度も何度も何度も改良して完成させました。
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編集=鈴木奈央 写真=小田駿一

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