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2021.04.01

内発的発展で尖った企業を輩出 コロナ危機こそ大阪「八尾モデル」から学べ

行政側のキーパーソンである八尾市の松尾泰貴(現友安製作所)。オープンファクトリーのオンライン配信からイベント登壇まで幅広くこなしていた。

99.7%──。日本の企業全体を占める中小企業の割合だが、決して日本が突出して多いわけではない。世界を見渡せば、細かな定義は違うものの、米国も99.7%(2012年)、EUは99.8%(15年)を占める。「創業5年の壁」があり、生き残れる中小企業は半数以下ともいわれるが、コロナ禍で経営環境はさらに変化の波を受けている。

そんな時代に注目したいのが、「内発的発展」による地域づくりだ。1社の覇者ではなく、各企業や行政がゆるくつながることで共存共栄を目指すものだ。

ボローニャと八尾の意外な共通点


まず、海外の成功事例を紹介しよう。ランボルギーニやマセラティを生み出したイタリア北部の工業都市、ボローニャに学びを得たい。自動車産業に目が行きがちだが、実は自動ラッピングマシーンの技術で世界最高峰を誇る。チョコレートの自動包装機械を製造する1社からのれん分けするように、ティーバッグ製造の機械を手がける子会社ができ、関連企業はいまや数百社。たばこの包装、薬の包装といった具合に各社が業務を細分化し、地域内でニッチなすみ分けが成立しているのだ。

ボローニャのあるエミリア・ロマーニャ州は、こうした産業集積により内発的発展を遂げ、その手法は「エミリアモデル」と称されるようになった。産官学の垣根を越えて人々が情報交換する「サロン文化」があることも、オープン・イノベーションの促進を後押ししたといえるだろう。

地域経済を潤すために企業誘致などで発展しようとする外来型開発に対して、地域資源を有効活用する内発的発展の事例は、国内にも多く存在する。例えば福井県は繊維、メガネ、漆器などの地場産業を技術革新し、世界での信頼も厚い。岩手県は産官学連携のインキュベーションシステムをいち早く導入し、最近ではライフサイエンス産業の工業団地を造成して発展している。

錦城護謨 グラス
錦城護謨のシリコーンロックグラス。落としても割れず、持ちやすさが特徴だ。錦城護謨は「SMALL GIANTS AWARD 2021」でゲームチェンジャー賞を受賞

新たな発展モデルを築き始めているのは、大阪府の八尾市だ。ゴム・土木・福祉の3事業を中心に多品種展開する錦城護謨、EC販売でヒット商品を生み出す木村石鹸工業といった製造業の「進化形」を生む八尾は、地域内で企業同士がつながり、アイデア商品を共同開発する事例で注目されている。

だが八尾の場合、イタリアのように自然なかたちで共存共栄関係が構築されたわけではない。戦後の高度経済成長期に人口が急増すると、八尾駅周辺を中心に商業が栄えた。それに伴い、古くから行われてきた鋳物や金属加工などの工業も発展し、日本有数のものづくりの集積地となった。

近鉄八尾駅前には「みせるばやお」がある
近鉄八尾駅前。市内には通り沿いに、工場が立ち並ぶ地域もあり、個性的な企業を輩出している。

八尾にはもともと一匹狼タイプの社長や企業が多く、それぞれがわが道を歩んでいたという。そんな「我関せず」の空気を変えたのは、1人の市役所職員だった。
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文=督 あかり 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.081 2021年5月号(2021/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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