培養ステーキ肉も昆虫肉もここまで来た。肉は試験管から「収穫」する未来?

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倫理観

食肉は、あえてストレートな言い方をすると、飼育した家畜の生命を奪って作られるもの。だからこそ、感謝の念を込めて残さず食べることが大切だが、食肉需要が高まる反面、賞味期限切れによって調理されることなく捨てられる食肉があることも事実だ。

培養肉の場合、家畜から摂取した筋細胞を何倍にも増やして作製されるため、犠牲になる家畜の数を減らすことに繋がる。ただ、家畜の生命を頂く行為が減ることが、必ずしも倫理上の改善になるとは言い切れないことも頭に入れておく必要がある。それは、筋細胞を入手する際に家畜に苦痛を与えることは避けられず、それら全ては人間の都合で行われる行為だからだ。

これらの思想については、培養肉の必要性の解説から逸脱しかねないので割愛とするが、犠牲となっている家畜の数を減らすことができるのは、現状からの改善という意味で大きなメリットと言えるだろう。

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環境保護

家畜の飼育には、広大な放牧地がなければならない。そのために違法な森林伐採が行われている地域もあり、環境破壊問題として深刻化しているのが現状だ。また、家畜の糞尿から排出されるメタンガスは、地球温暖化に悪い影響を与えている。これらの事情を踏まえると、今後食肉を増産することは、環境破壊を押し進めることに繋がりかねない。

その点、培養肉が普及すると、家畜を飼育するために作られたスペースが不要になるため、伐採された森林を復興させることができるかもしれない。家畜の飼育に必要な飼料や水も削減できるため、培養肉の一般化は環境保護に有効な手段の一つとなるはずだ。

安全性・保存性

培養肉は、衛生管理が徹底された環境で、無菌状態の細胞組織によって作製される。そのため、食肉以上に安全性が保証され、保存性が高められると期待されている。

放牧地でも、抗生物質を投与することで菌への対策は常に行われているものの、研究所に比べて衛生管理が難しいことは明らかだ。加熱不足や生の食肉に触れたまな板などから、他の食材に菌が付着することで、食中毒が発生した事例もある。その点、培養肉は抗生物質の投与なしに安全性の高い肉を作製することができる。研究所で作製された培養肉と聞くと、抵抗感のある人もいるだろうが、むしろ食肉より安心して食べられる事実は抑えておきたいポイントだ。
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文=アステル 編集=石井節子

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