「文系は食えない」論を前川元次官に聞く。どうするわが子の進路選択

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さらに言えば、国にとって国立大学は「役に立つ人間を育てる」ための機関という認識があるという。

「『役に立つ』というのは、『国』の役に立つということ。国力を充実させるという意味です。国力=経済力、軍事力、科学技術力。それらを高めていくための、生産性の高い人材を育成するという狙いが高いわけですね」

これは、明治時代に森有礼が定めた「帝国大学令」に由来するという。

「帝国大学令では『帝国大学の目的は国家に必要不可欠な人材を育成すること』と述べられています。戦後は、学ぶ権利、学問の権利が尊重され、大学は『学ぶ権利を保障する場』となりましたが、根底には『生産性の高い人間を育てる』という考えが脈々と続いているのです。これらの考えも『国立大学文系学部廃止論』につながっているのでしょう」

ビッグバンのあり方を知ることは、「役に立た」ないのか?


でも、お金を生み出さなくても、プライスレスな価値があるものもたくさんあります、と前川氏は言う。

「たとえば、ノーベル賞を受賞した小柴昌俊さんがニュートリノを発見した『カミオカンデ』やその進化版である『スーパーカミオカンデ』『ハイパーカミオカンデ』はいずれもビッグプロジェクトで、大きなお金が動いています。それだけお金をかけてどれだけの投資効果があったかと言えば、お金ではかえってきません。でも、世界の誰もが知りえなかった『宇宙の真理』に迫った。ビッグバンの解明に近づいたのです。つまり、お金にならないプライスレスな価値があるのです。

学問の価値はお金や有用性、生産性だけで評価してはいけない。学ぶことは学ぶことそのものに価値があって、学ぶこと自体が楽しいのです。小柴さんのように学びを究めることは本当に幸せな生き方なのではないかと思うのです」

学問は本来お金を蓄えるためのものではなく、自分の心の蓄えを増やすためにやるもの。そう考えると、どんな分野の勉強も自分の糧になるということだ。もし今、お子さんが進路に迷っていたなら、どうか伝えてあげてほしい。お金に結びつくことだけが学問ではない。自分がワクワクすること、楽しいと思えることをもう一度考えてみては? と。


前川喜平◎東京大学法学部卒。文部省(現・文部科学省)入省後、宮城県教育委員会行政課長、ユネスコ常駐代表部一等書記官、文部大臣秘書官などを経て、大臣官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官、文部科学事務次官に就任。2017年、文部科学省を依願退職。

取材・文=柴田恵理 編集=石井節子

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