世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版


ピタゴラスの定理は、ピタゴラス本人にも私有財産化できない


たとえばピタゴラスがピタゴラスの定理を私有財産化することはできない。それはこの定理が万人に開かれた100%オープンなものだからだ。真理を追究する営みを「学問」と定義するならば、学問の成果は売買できないし、知的財産を主張することもできないのだ。

文部省と科学技術庁が統合される際、文部省で学術行政を行なってきた人が心配していたことが今、現実になっているという。それは学術が「科学技術に牛耳られている」という事実。学術も、科学技術の観点から評価される流れになってきているというのだ。

「一見すると、『学術』と『科学技術』は非常に似通っています。特に自然科学系の研究は科学技術と言ってもいいし、学術とも言える。ただ、決定的に違う点がひとつあります。

それは、科学技術は『はじめから何かの役に立つことが目的』という点です。さらに言えば、国のため、経済の役に立つ、最終的に国力、軍事力、経済力などを高めるための行政、これが科学技術行政です。一方、学術は先にもお話ししたように役立つかどうかは二の次。知的欲求を満たすことが目的です。精神が豊かになるし、ワクワクする。それらはお金には換算できません」

科学技術基本法改正で起きた、ある「重大な変更点」


これまで、「科学技術基本法」では、人文科学、社会科学は科学技術の定義からはずれていた。ところが2020年の法改正によって、人文科学も社会科学も科学技術に含まれることになったという。「建前」自体が変わってしまったということだ。

「人文社会科学を、科学技術という『役に立つかどうか?』という観点から眺めると、役に立たない学問が山のようにあります。これらは特に文系学部に多い。

お金で換算できる価値を生むかどうかで、大学の学部も評価される。ということは、お金を生み出さない人文社会科学系の学部はおのずと「役に立たない学部」という流れに行きつくだろう。そこから派生して、「こんなことを勉強しても金にならないし、GDP、国力の充実にはつながらない。こんなもののためにお金を投入しても意味がないんじゃないか」という理論が当然生まれてくるというわけだ。

実は、今の日本学術会議の担当は科学技術担当大臣だという。「科学技術担当大臣から見れば、学術には役に立たないものがたくさんあります。だから、『学術会議は役に立たないのではないか』という議論に直結してしまうのです」

取材・文=柴田恵理 編集=石井節子

PICK UP

あなたにおすすめ