急増するアジア系へのヘイトクライム 米で「Invisible Minority」であるということ

ニューヨークの実業家・政治活動家のアンドリュー・ヤン氏は台湾からの移民二世だ(Getty Images)


また、チャン教授によるとアメリカにおけるアジア系の男性に関しては、「中性的で性的対象とならないというステレオタイプか、もしくは特に際立ったステレオタイプがない」と分析する。

アフリカ系への差別では、アジア系へのイメージと対照的に「彼らは頭は良くないが身体的能力が高くマスキュリンで、そのために凶暴である」という言説が用いられてきたという。そして映画などでは「白人女性と関係をもつことを望む黒人レイプ犯」といったイメージが故意的にしばしば描かれた。

アジア系男性は性的対象となり得ない者として認識されることで、「白人女性を狙う」といった脅威の外に置かれたことも、Invisibleで模範的なイメージが形成される一因となったかもしれない。そして「声を上げない」アジア系のイメージへと繋がっていったとも考えることができる。

ある種白人社会にとって都合の良いマイノリティーであることから、アジア系への扱いは曖昧だった。アフリカ系への差別と異なる点について、チャン教授はこう指摘する。

「アフリカ系の人々は多くの抑圧や暴力を伴う差別、さらには分離政策などで法的にも差別を受けてきた。警察からの暴力の対象にもなった。対して、アジア系の人々は人口も少なく、アメリカ社会において無視されてきたような側面がある。

1960年代までの分離政策があった頃、アジア系は場合によっては白人用の設備を使えたのではないか。『本当のアメリカ人にはなれない』と差別の対象ではあるものの、黒人とも白人とも見なされないアジア系への扱いはそれほど曖昧だった」

連帯をもてるのか


さらに、アフリカ系の人々は祖先のもともとの祖国は異なれど、奴隷としてアメリカに渡ったという共通のレガシーがある。一方でアジア系の人々は多くの異なる国からやってきて、それぞれの文化やバックグラウンドをもつ。

チャン教授はこう語る。

「アジア系以外の大抵の欧米人から見ると、中国系であろうと日系であろうとベトナムからの移民であろうと、アジア系はアジア系と一括りに見なされる。今回のStop AAPL Hateムーブメントのように、アメリカのアジア系住民が団結する時もあるが、全く異なるそれぞれの文化的背景をもつと自負する当事者にとっては、アジア出身であることを共通項にして今後も強く連帯をもてるのかと言われると、障壁は大きいようにも感じる」

#StopAsianHateはさらに大きなムーブメントへと発展し、アメリカ社会におけるアジア系住民へなにかしらの方向から変化を与えるだろうか。少なくともヘイトクライムのさらなる拡大が起きないことを願うばかりだ。

文=河村優

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