レストランランキングの拡張に見る、ローカルガストロノミーの未来

左より「メゾン・ドゥラ・ナチュール・ゴー」の福山剛氏、「ヴィラ・アイーダ」小林有巳氏、「チェンチ」坂本健氏、「傳」長谷川在佑氏、「ヴィラ ・アイーダ」小林寛司氏

今年も、世界の美食家が注目する「アジアのベストレストラン50」の最新版が発表された。また今回は初めて、51位〜100位の店も発表となった。地方も含め、より多くのレストランにスポットライトを当てることで飲食業界を支援するのが目的だ。

従来の「ベスト50」は、東京・大阪・福岡と大都市が中心だが、100位までには新たな地域を含む9店がランクイン。64位に和歌山の「ヴィラ・アイーダ」、92位に京都の「チェンチ」などバラエティが増えたほか、83位には女性シェフ、庄司夏子氏の「エテ」が入るなど、未来への動きを予感させる内容となった。

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ローカルガストロノミーへの期待


日本評議委員長の中村孝則氏はこれについて、「51位以降のランキングの公開を初期からリクエストしてきて、ようやく実現した。色々な地域の様々なレストランが入り、多くのレストランにより一層興味を持っていただけるきっかけになったのではないか」と語った。

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51〜100位に地方のシェフが加わってきたことは、ローカルガストロノミーの将来を予感させるものだと言えるだろう。実際、コロナ禍により、通常は海外に出かけていくフーディーたちが国内に留まり、地方の食を、以前よりつぶさに開拓していっている。

新しく100位以内にランクインした店の声からも、そんな潮流が読み取れそうだ。

64位の「ヴィラ・アイーダ」の小林寛司氏は、自家農園での野菜を使った料理作りを行っている。その農園には、市場に出回る食材だけでなく、芽から実まで、あらゆる状態の野菜が並ぶ。季節に従い、それらを組み合わせていかにおいしさを生み出していくか──自然を感じ、導かれるままに生み出す。「アーティストの小松美羽さんのような、大地や生命のエネルギーを形にする方からインスピレーションを受けます。いつか、アートと料理のコラボレーションをやってみたい」と語る。

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左から「ヴィラ ・アイーダ」小林寛司氏、「エテ」庄司夏子氏、「チェンチ」坂本健氏

91位の「チェンチ」は、「イル・ギオットーネ」などで修業を積んだ、京都出身の坂本健氏が率いる。坂本氏は2018年に、ペルーのヴィルヒリオ・マルティネス氏のレストラン「ミル」を訪れたことで料理に対する考えが変わったという。

「地元でとれる穀物ばかり出てくるのに、なぜ飽きずに美味しく食べられるのか、驚きの連続でした」。それ以降、土地の食材に一層フォーカスし、ここでしかできない体験をレストランの価値と考え、既存のイタリアの料理法だけでなく、日本の麹を使った発酵なども取り入れるようになった。京都の食材とイタリア食材の旨味を掛け合わせ、「僕の料理は、『日本料理』とは呼べないかもしれないが『京料理』とはいえると思う」と語るほどに、地域色を打ち出している。
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文=仲山今日子

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