全世界に約51万4,000人、日本法人だけでも1万5,000人ものメンバーがいるアクセンチュアが出した解が「インダストリーコンバージェンス」である。
これまで業界ごとに散らばっていたアイデアやテクノロジーを、業界の壁を超え融合させ、クライアントに新しい価値を提供する、インダストリー(業界)をコンバージェンス(収束)させるということだ。
実際、異なる業界の動きに敏感になっている経営者は増えている。同じ業界の中だけにいては先が見えないからだ。
異業種に進出したい、異業種の知見が欲しい。「何か得るものはないか」、それが時代のニーズとなりつつあるという。クライアントの要望を得て、各業界・業種のエキスパートが揃うアクセンチュアがついに本格的に動き出した。
「未知なる掛け算」で不確実な世界でのビジネスを支援する、そのコンセプトが、「インダストリーコンバージェンス」なのだ。この変革に取り組む2人のリーダーに話を聞いた。
仕事に“魅了され続け”、気がつけば10年戦士となった2人
「以前は、通信や金融、製造・流通など業界別に分類された5つの本部がありました。この本部ごとにコンサルタントやエンジニアなどの人員が割り振られて、各業界に特化したスペシャリストを育成する組織形態でした」
そう話すのは、ビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループのマネジング・ディレクター廣瀬隆治だ。廣瀬は通信業界のエキスパートである。新卒で入社し社歴17年のベテランであるが、意外にも入社時は「飽きっぽい性格なので、5年で辞めるんだろうな」と思っていたという。
なぜ飽きっぽいのに同じ領域で17年もエキスパートとして勤めているのか疑問に思った。「アクセンチュアは常に新しいことに挑戦することを許容してくれるから。もちろん、やることはやらないと駄目ですけどね」と彼は答える。
「私もこんなに続くと思ってませんでした。思ったより楽しくて」と続くのが、同本部コンサルティンググループのマネジング・ディレクター近藤未希。近藤は中途で入社し社歴10年、保険業界のエキスパートである。
実は近藤、新卒で国内大手メーカーに研究職として入社し、4年半後にアクセンチュアへ。「研究だけでなく、世の中やクライアントの課題を解決する仕事に携わりたい」と近藤が選んだのはアクセンチュア。元々は保険のスペシャリストではなかったのだ。
しかし入社した2011年、時代の変化に巻き込まれた。東日本大震災という誰もが想像できなかった非常事態下で、知見のない業界のサポートに奔走することになる。
当然ながら刃が立たない。「全く価値が出せなかった」と、入社時の頃を振り返る。
「入社して半年、かなり落ち込んでいました。でも、これまでの仕事と違うのだからできるわけがない。前職の経験をリセットしよう、ゼロから全てを吸収しようと考えるようになったのです」。吹っ切れた近藤は、それから仕事が楽しくなったという。
ビジネスコンサルティング本部 コンサルティンググループ マネジング・ディレクター 近藤未希
それを聞いた、廣瀬もこう続けた。
「私よりも年上で、さらに経営企画の経験豊富な方が下の職階で入ってきたことがあります。彼は『アクセンチュアの中では廣瀬さんが先輩だから駄目なところは何でも教えてください』と言っていたのですが、あっという間に出世して私を追い越して行きましたね」
前職の経験に囚われない方が伸びる会社ですよね、と二人は笑った。
業界のエキスパート、だが固定概念には惑わされない
ここで、2人が取り組む「インダストリーコンバージェンス」の話に戻そう。なぜ今、企業の経営層が異業種のアイデアやテクノロジーに関心を示すのか。
お互いはこう語る。「一つの業界に居続けると業界に染まってしまいますよね、今はそんな時代ではないんです」と。
例えば損害保険で考えると、今後は自動車保険だけに頼ってはいけない時代がすでに到来している。各社は介護やヘルスケア分野など、様々な新しいことに挑戦しているが、システム設計時に「保険業界の基幹システムの考え方を踏襲すると大変なコストがかかる」と近藤は指摘する。
ではどうするか。
クライアントが新たに考えているサービスに“近い業界”、例えば通信やヘルスケア等の領域を担当しているコンサルタントにプロジェクトに入ってもらうのだ。結果、全く違う観点からアプローチでき、最善のアーキテクチャが完成する。
そう、他業界・業種の知見を使うことによって、イノベーションは起きるのだ。
業界の壁を超えてコラボレーションすることにより生まれる価値は大きい。インダストリーコンバージェンスは「未知なる掛け算」で不確実な世界でのビジネスを支援することである。
業界の壁を超えてコラボレーションしやすくなった今、専門業界が違う二人であればなにを目指すのであろうか。
近藤は、「損害保険の分野ですと、収益の柱である自動車保険では、事故などが発生するとドライブレコーダーを通じて、自動的に保険会社に通知・保存される仕組みが導入されてきています。莫大なデータをリアルタイムで処理できる技術が必要なので、やはり5Gの技術は興味あります」と語る。
また、「生命保険でいうと、亡くなったときの保険ではなく、より健康で楽しく長生きするための保険に各社が力をいれてきています。QOLをいかに上げるためのサービス作りにまさに取り組んでいるところです。ここにも5Gの技術を使ってインタラクティブにサービスを提供できるといいですね」と見据える。
ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター 廣瀬隆治
変化とは、過去に“とらわれないこと”。それがアクセンチュアの企業文化
廣瀬と近藤は言う。「クライアントの経営層は、異業種・異業界への興味関心が強い人が多い」と。
業界の壁を超えて新たなイノベーションを生み出す。これはアクセンチュアが目指す未来である。
アクセンチュアでは以前より、クライアントのCxO向けにワークショップを行なっている。CEO向けやCSO向けなど対象ごとにテーマを選定したり、あるいはテーマを決め、関心のある経営層や事業部門長を招く。クライアントはそのワークショップで忌憚ない意見や情報交換を行なうことができる。
「もっとオープンにやりましょうよ、と。コンサルと聞くと一匹狼のイメージが強いが、アクセンチュアは違う。コンサルタント同士が協働し、共創できるのが我々の強みなのです。
これはクライアントの皆さまも同じ。自分の業界や自分の会社を守るだけでなく、異なる業界のトップ同士が結びついて、化学反応を起こすこと。それがこの不確実な時代において、何よりも重要なのではないかと。
クライアント同士を引き合わせるだけでも良い。その結果ビジネスが生まれることもあります」と、廣瀬は想いを語る。
グローバルでみても巨大企業であるアクセンチュア。日本オフィスだけで考えても大変な規模である。そのような組織が、時代に合わせて柔軟に組織を変化させている。
変化を恐れない企業、まさに、イノベーションのジレンマとは無縁であると感じた。そして、廣瀬と近藤が言っていた「前職の経験に囚われない方が伸びる会社ですよね」、その真意も理解できた気がする。
全ては「変化の力」、「テクノロジーと人間の創意工夫で、社会とビジネスに新たな価値をもたらす」ために。
各業界のエキスパート集団であるアクセンチュアのインダストリーコンサルタントが新たなイノベーション、価値を生み出すために、業界の壁を超え、知見を融合すべく動き続けている。