ビジネス

2021.04.28

モノからはみ出た「サービス」にこそ勝機あり 家電や調理器具の新潮流

Maskot / Getty Images


フライパンの製造元が肉を売る時代


家電製品のIoT化が進む一方で、電気が通らない調理器具、つまりIoTを導入できない製品も、インターネットとサブスクリプションの仕組みを通じて「製品+サービス」の世界を実現するケースが出てきた。

愛知県にある80年の歴史を持つ石川鋳造は、碧南市の地場産業である鋳物を製造する会社だ。昭和33年ごろからは自動車部品の製造が増えてきたのだが、ハイブリッド車や電気自動車の普及のなかで、自社製品の開発に取り組んだ。

「鋳物屋としてできることは何か?」の問いかけから、得意とする鋳造技術を使い、「世界一お肉が美味しく焼けるフライパン」を目指して3年をかけて開発。「おもいのフライパン」をつくった。すると、これが大ヒット。鋳物の特長を生かし、熱伝導がよくテフロン加工をしない無塗装のこのフライパンで肉を焼くと、とにかく美味しいと評判を呼び、一時は3年待ち、いまでも3カ月待ちでしか手に入らないほど人気を博している。メディアにも多数登場しているのでご存知の方も多いのではないだろうか。

おもいのフライパン 20cm
おもいのフライパン 20cm(Webサイトより)

そんな同社がいま注力しているのは、「お肉のサブスク」だ。毎月定額でプレミアな肉が届けられ、しかもサブスク会員は「おもいのフライパン」(20cm)を無償でレンタルできるというもの。肉を美味しく焼けるフライパンをつくった鋳物メーカーが、今度はそのフライパンで焼くための美味しい肉を提供する新たなサービスを始めたというわけだ。

同じように、お米のサブスクを始めた土鍋の製造メーカーもある。三重県四日市にある中村製作所は、1/1000mmの高精度加工で航空宇宙部品加工も行う、優れた切削加工技術を持つ製作所だ。その切削加工技術をもとに、「MOLATURA(モラトゥーラ)」ブランドとしてあらたな事業を開始。

その製品のひとつが、蓄熱調理ができ、デザイン性も高いおしゃれな土鍋「best pot(ベストポット)」だ。お米が美味しく炊けると評判の同製品の普及をめざして、この4月から「お米のサブスク」を始めた。

bestpot ベストポット お米のサブスク
best potで美味しく炊けるお米のサブスク(Webサイトより)

中村製作所の山添卓也代表取締役は「best potはモノですが、お客様に伝えたいのは食べてもらうコト。best potで炊いたご飯が美味しいコトを知ってもらいたい」と話す。


さて、これまで紹介してきたように、メーカーがモノをつくるだけで成り立っていた時代は終わったと言えるだろう。

トヨタ自動車が自動車メーカーからモビリティ・サービスへ変化しようとしているのも、まさにこのためだ。自動車メーカーのある幹部は次のように語る。

「いままではサプライチェーンを構築するうえで、社員数などでその規模感はある程度は計れた。1万人いる会社の下に5000人の会社があり、その下に3000人の会社があるといったように。

しかし、自動運転などが車に組み込まれると、サービスやソフトウェアの仕組みを持つ3人の会社が、1万人の会社に上に立つサプライチェーンが成り立つことになる。これまでのメーカーの考え方から早く脱却していかなくてはいけない」

商品をつくって売るだけではなく、その後も、購入した人へのサービスを通して、継続的なつながりを持ち続ける。

調理家電や調理器具も、その製品自体だけの魅力にとどまらず、それを中心とするサービスを展開することによって、消費者と関わり続けていく。そのことで、企業が新たなビジネスを生み出していく。そんな時代に来ているのだ。

連載:デザインとテクノロジーがビジネスの未来を変えていく
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文=中村祐介

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