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(左より)Human Hub Japan代表 吉川正晃、ペイフォワード代表取締役 谷井等、日本総合研究所プリンシパル 東博暢、i-plug代表取締役 CEO 中野智哉

「関西から世界を変えていこう」をスローガンに活躍する大阪発スタートアップの勢いが止まらない。わずか数年で一躍、魅惑の都市となった大阪エリアの背景には、どのようなストーリーがあるのだろうか。大阪スタートアップ・エコシステムのキーパーソン吉川正晃がシナジーマーケティング創業者の谷井等、i-plugの中野智哉、日本総合研究所の東博暢をゲストに迎え、話を聞いた。


海外も注目する、関西マーケットの魅力


吉川正晃(以下、吉川):大阪を中心とした関西エリアのスタートアップの活況ぶりを示すひとつのデータとしてIPO件数が挙げられるでしょう。全国比率でいうと、ここ数年、10%前後で推移していたのが、2020年には15%に急上昇したのです。明らかにスタートアップが関西経済に大きなインパクトをもたらし始めていると私は実感しています。

また、大規模な都市開発や国際的なイベントを控え、日本国内だけではなく、今後は海外からも脚光を浴びるのではないかと期待しています。

スマートシティ推進支援やイノベーション戦略策定など政府のアドバイザー委員を歴任されている東博暢さんにまず、お聞きしたいのですが、客観的に関西、大阪エリアの現状をどのように評価されていますか。


Human Hub Japan代表 吉川正晃

東博暢(以下、東):現在、大阪で進んでいるスマートシティプロジェクトは、オリンピック・パラリンピックに向けて行われている東京エリアの都市開発よりもスケールがさらに一段大きなプロジェクトだと考えています。2025年の日本国際博覧会(以下、万博)の開催地である夢洲、「未来医療国際拠点」の中之島、グランフロント大阪を中心とした「うめきた1期及び2期地区」が有機的につながることで、大阪は世界でも類をみない先進都市に生まれ変わろうとしています。

スマートシティプロジェクトがこれまでの都市計画と違うのは、土地や建物に大規模な資金を投入するだけでなく、社会基盤を支えるための次世代テクノロジーを活用した新たなサービスにもどんどん投資していこうというアクセラレーター機能が働いていることです。


日本総合研究所プリンシパル 東博暢

吉川:スマートシティの最大の目的は、市民生活の向上です。自動運転、クリーンエネルギー、ヘルステック、小型衛星技術、デジタル……。都市機能そのものを根本から書き変えていくということですね。

:サスティナブルかつイノベーティブな街づくりの文脈には、革新的な技術をもつスタートアップの存在が欠かせません。スマートシティは再現性が高いので、成功モデルが一気に海外に波及する可能性もあります。大阪市のようにグローバルイノベーションエコシステム拠点をもつ大都市がスマートシティに生まれ変わるのは非常に筋がいいのです。あらゆる領域でたくさんのビジネスチャンスが生まれるでしょう。

吉川:万博が起点となって、日本だけではなく、海外からも大阪市は注目され始めています。今後ますます、世界からイノベーション企業が大阪に進出してくる可能性があると解釈してもいいでしょうか。

:日本では人口減による経済の衰退が懸念されていますが、それでも関西圏(大阪、兵庫、京都、奈良)だけで、2,000万人が暮らしています。小さな地域にこれだけの人が集まっている都市圏というのは世界的に見ても希です。ヨーロッパ一国あたりのサイズがありますから。海外企業の視点でいえば、関西圏はいまなお非常に魅力的なマーケットです。

昨今、日本のスタートアップは海外志向が強い傾向がありますが、万博を契機に海外企業とのオープンイノベーションによって足元のマーケットで何ができるかを考えてみることも重要ではないでしょうか。実際、大阪の先進技術をもつスタートアップやユニコーンは、関西圏をさらに発展させていく力があると思っています。


大阪スタートアップ・エコシステムの概念図


インターネット黎明期の秀逸なサービス


吉川:最近になってようやく大阪のイノベーションエコシステムは全国的にも認知度が高まりつつありますが、ここに到達するまでにパイオニアたちの先見性があったことを忘れてはいけません。そのひとりでもある谷井等さんに、大阪、関西のエコシステムがどのような過程を経て成長してきたのかお聞きします。


ペイフォワード代表取締役 谷井等

谷井:私は、 1997年に現在のシナジーマーケティングの前身となる会社を創業したのですが、当時はスタートアップという言葉はなく、IT企業が人々の課題を解決するという社会的な期待もさほど感じられませんでした。

それから3年ほどが経ち、99年くらいから東京を中心にネットバブルが起きて、渋谷ビットバレーが人々の関心を集め始めていた時期に、大阪でもベタバレーが勃興し、スタートアップの起業家が集まり始めました。

ただ、東京ほどの華やかさはなく、スタートアップに理解を示してくれた大手企業のショールームをお借りし、起業家、金融機関や証券会社の人たち100人くらいが集まって、ひっそりとイベントやネットワーキングを行っていたのが、現在の大阪のスタートアップエコシステムの原型なのではないかと思っています。

吉川:当時の大阪では、どんな領域の起業家が活躍していたのでしょうか。

谷井:核となっていたのはeコマースです。実は、関西で逸品.comというサイトが立ち上がったのが、日本におけるeコマースの始まりです。釣り具メーカーや傘屋、Tシャツの専門店などが参加し、きちんと数字を出していました。楽天はその後に登場します。

吉川:谷井さんもその時流に乗ったのでしょうか。

谷井:いえ、私たちの会社はメーリングリストを無料でつくれるBtoCのサービスを提供していました。関西で同様の事業を行っていたのは、さくらインターネットを創業した田中邦裕さんなどごく少数でした。

ウェブサービスのスタートアップは東京に集中していて、逆にeコマースなど商売系のスタートアップは大阪が先行していました。新たなビジネスの誕生とともにベンチャーキャピタルが立ち上がりはじめた印象です。

吉川:その後、東京と大阪のスタートアップの明暗は分かれることになります。何が原因だったと分析されていますか。

谷井:インターネットの黎明期に大阪のスタートアップが大きな飛躍を遂げられなかった理由は、ファイナンスに尽きると思っています。東京のスタートアップは初期の段階から資金調達しながらビジネスモデルを創っていくという大胆な発想がありました。

一方、大阪は商いの文化とともに緩やかに発展してきた街ですので、借金を背負って事業を育て、大きく展開していくという発想そのものが理解できない。

その差が大きかったと分析しています。この差を埋めるためのマインドセットはたいへん困難ですので、時代に即した次世代の起業家を育成する必要性を感じました。

吉川:その後、ネットバブルが崩壊、リーマンショックが起きました。こうした過程のなかで大阪の起業家のマインドも大きく変わっていったのですね。

オンラインによる企業と就活生のマッチングサービスのフロントランナーとしていまや飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しているi-plugの中野智哉さんは2012年に創業しています。この頃は大阪を包む空気感に何かしらの変化はあったのでしょうか。

起業家のモチベーションを高める仕組み



i-plug代表取締役 CEO 中野智哉

中野智哉(以下中野):谷井さんは私のメンターでもあり、創業時から現在に至るまで数多くのアドバイスを頂いています。創業して間もない頃はぎりぎりのところで経営していたので、他の起業家と接する余裕はなかったのですが、3期目に入って事業の芽が出る兆しが見えたときに、大阪の起業家団体のひとつである秀吉会に加盟しました。

秀吉会に入ったときにメンバーから谷井さんが大阪、関西で残した功績を聞きました。大阪の商慣習の伝統を残しながらも、社会の変化やテクノロジーの進化とともにビジネスをアップデートさせていくスタートアップ本来のダイナミックな発想を起業家たちに教えてくれたのが谷井さんだったのです。

吉川:関西圏以外の人は秀吉会に詳しくないと思うので、中野さんのほうから簡潔に説明していただけますか。

中野:1996年に創設した秀吉会はその名の通り、起業家が自らの領域で天下一を目指すことをコンセプトにしています。現在は30名ほどの起業家が所属していて、お互いが切磋琢磨しながら2030年に合計時価総額1.5兆円を目標にしています。

吉川:谷井さんも秀吉会には深く関われていますが、起業家たちにどんな影響を与えたのでしょうか。

中野:秀吉会に所属するメンバーのほぼすべてが、3代目の会長に就任した谷井さんの教えに感化されたのは間違いありません。「案件の連続を事業と思うな」「とにかく打席に立て」など多くの金言を残してくれました。

そのなかでも会合に参加するときの、「一杯の水を持ち寄れ」という心得は、大阪の起業家に広く浸透し、私たちに共創と競争の精神を植え付けてくれました。

吉川:どんな意味が込められた言葉なのでしょうか。

谷井:関西圏がグローバルハブとして機能していくためには、エコシステムとしての思想をつくり上げていくことが何より大切になると考えました。一杯の水とは経営者一人ひとりの成功体験、アイデア、価値観のことで、それをシェアすることで多様性が育まれます。

先ほど東さんがおっしゃられたように、これからのスタートアップに必要なのが国際連携だとすれば、自分の会社を伸ばすことと同時に、関西エリア全体がシリコンバレーのように成長していく必要があると考えたのです。

2010年に私が立ち上げたEO大阪(世界的起業家組織EOの大阪支部。日本には10カ所のEOの支部がある。)でも、「志高い起業家を結集し、関西をアジアの経済のハブにする」ことをビジョンとして掲げています。

中野:現在では、大阪、関西のスタートアップの文化になっていますよね。

吉川:秀吉会、EO大阪、その他にも大阪には、起業家のコミュニティがたくさんありますが、大阪らしい活動はありますか。

谷井:2015年に大阪府からEO大阪に委託されたBooming事業は、非常にユニークな取り組みではないでしょうか。

Boomingとは、先輩起業家が後輩起業家を支援するプログラムのことで、私たちは、5年間で3社のIPOの実現を目標として掲げました。起業家は1on1に近い形で指導を受けるので、徹底的に鍛え上げられます。私は、事業を成長させるポイントは適切な目標設定と着実な実行に尽きると確信しているので、そのための訓練を行いました。

その企画のひとつに事業トラッキングがあります。A4用紙に毎月自分が優先してやるべきことを3つ記してもらい、翌月、結果発表します。最初のうちは未達成が続くので、その原因をあぶり出しフィードバックします。これを繰り返していくうちに自然と目標が達成できているようになるのです。

経営者というのはロングタームの目標を立て、そのためのKPIを設定し、単年度の計画を立て、月次の活動に落とし込んでいきます。荒唐無稽な目標を掲げれば、挫折が待っているだけですし、簡単に達成できる小さな目標を立てると会社はいつまで経っても成長しません。経営者として必要な能力を身につけてもらうための仕組みをつくったのです。

吉川:実際にIPOは実現したのでしょうか。

谷井:はい。スマレジ、リグア、それに中野くんのi-plugの3社がIPOしました。

中野:今後、さらに増えていくと思います。みんなが本気でIPOを目指しているので、それを目撃するとさらに目の色が変わります。

吉川:19年からKansai Future Summitが開催されています。中野さんはこのイベントの実行副委員長を務め、大きな手応えを感じているようですね。

中野:若手のスタートアップと産官学のリーダーを結びつけるイベントですが、参加者の7割が起業家なのです。スタートアップがこれほど集まるイベントはないとメディア関係者からも驚かれますが、それほどいまの大阪は異様なほど熱量が高いのです。

谷井さんをはじめとする先駆者たちが世界に羽ばたくスタートアップを大阪、関西から育てようとされてきた取り組みは確実に次世代に受け継がれていると言っていいでしょう。

吉川:一方で大阪市の取り組みについては、みなさんどのように評価されていますか。

中野:大阪市が開設した大阪イノベーションハブ(以下OIH)は、起業家にとって非常に心強い存在です。私も創業した直後というのは、OIH主催のピッチイベントに何度も登壇させていただきました。ステークホルダーに自社のビジネスを知ってもらう絶好の場でもあり、実際にOIHのイベントをきっかけに資金調達に成功した話もよく聞きます。

:エリア外の起業家が大阪進出を考えた場合、フィジカルな拠点が大阪駅直結のグランフロント大阪内にあるのは非常に有益ですよね。OIHに行けば、事務局メンバーだけでなく、起業家もいるので情報収集にも役立ちます。

谷井:地方の起業家にとってゲートウェイの役割を果たしていると思っています。

吉川:大阪のエコシステムは可能性に満ち溢れています。OIHを拠点として私たちも全国から優秀な人材をこの地に招くために、プロアクティブに発信していきたいと決意を新たにした次第です。みなさん、本日はありがとうございました。




谷井等(たにい・ひとし)◎ペイフォワード 代表取締役。日本電信電話株式会社を経て、1997年合資会社DNSを設立し代表社員を務める。2000年インフォキャスト、インデックスデジタルを設立。2005年にシナジーマーケティングを設立し、2007年ヘラクレス(現JASDAQ)上場後、2017年に代表取締役を退任。現在は、ペイフォワードの代表取締役を務める。

中野智哉(なかの・ともや)◎i-plug 代表取締役 CEO。インテリジェンス(現パーソルグループ)において10年間の求人広告市場の法人営業経験を経て、2012年4月18日にi-plugを設立。新卒ダイレクトリクルーティングサービスOfferBoxを運営。2021年東証マザーズ上場。

吉川正晃(よしかわ・まさあき)◎Human Hub Japan 代表。民間公募で大阪市のイノベーション行政全般に携わる。民間企業勤務時は、海外ITベンチャー企業との提携や、新事業開発、企業経営を行う。元・大阪市経済戦略局理事。阪急阪神不動産、一般社団法人日本スタートアップ支援協会および各種ベンチャー企業等の顧問を務める。Forbes JAPAN「88人のローカルイノベータ」(2017年)の一人に選出。中小企業診断士。

東博暢(あずま・ひろのぶ)◎日本総合研究所 プリンシパル。ベンチャー支援や社会企業家育成支援、ソーシャルメディアの立ち上げを経て、2006年日本総合研究所入社。情報通信分野(ICT)を中心に、PMI、新規事業策定支援、社会実証実験を通じた法制度改正・ガイドライン策定支援等を実施しており、近年ではICT融合領域として、ヘルスケア分野やスマートシティ分野の都市開発支援等のコンサルティング活動を行っている。



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