アジアのベストレストラン50、受賞シェフは今何を考える?

100位までにランクインした日本のシェフが、横浜で行われた授賞式に参加した


また、未来の食はどうなっていくのかについて、「ラ ・シーム」の高田裕介氏から興味深い話があった。高田氏は「食がこのまま進んでいけば、なるべく手早く栄養がとれるようになれば良いと、食事代わりにサプリメントで済ませるようになってくのではないか」と危惧している。

「例えば、人が食事をするときに、噛むと食感があって、味がする、と無意識のうちに予想しているのは、これまでの食の経験による期待値。仮にずっとサプリメントだけで生きてきた人であれば、そのようなことは期待しなくなるでしょう。その感覚の喪失はあまりに寂しいです」



奄美大島で自然と触れ合う子供時代を過ごし、料理は五感を使って作り、食べるもの、と考えてきた高田氏にとって、コロナによる外出自粛で、世界が閉じられ、より一層、五感を使う機会が失われてしまう危機感もあるという。ただ、一概に科学と食の進化をマイナスと見ているわけではない。「例えば、骨伝導のイヤフォンのように、味覚以外の新しい方法で味を感じることができるかもしれません」と、食体験の新しい形にも関心を持っている。

ファインダイニングの未来


昨年から続く飲食業界の苦境について、「世界のベストレストラン50」コンテンツ・ディレクターのウィリアム・ドリュー氏は、「コロナ禍は、世界のガストロノミーの潮流を大きく加速させ、凝縮させたと言えるでしょう。しかし、一部で聞かれる『ファインダイニングは死んだ』という報道は誇張されていると思います」と話す。



「人は心に残る素晴らしい瞬間を求めるもので、それを届けるファインダイニングは決してなくなりません。ただ、その姿は常に進化しています。これからは、臨機応変で堅苦しくなく、深い配慮に基づいた、ゲストの食体験を高める贅沢さに向かっていくでしょう。ゲストの『期待に合う』レベルではなく、期待を超えた体験を先回りして提供することが大切になってきます」と、未来のファインダイニングのあり方を示唆した。
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文=仲山今日子

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