CEOがストレスの大きい仕事をしていることは、いまさら言うまでもない。だが、1600人を超えるCEOを対象にしたこの信頼性の高い分析では、CEOの死亡率や老化に対する影響に関して、気がかりな事実が明かされている。
調査結果の一例を紹介しよう。1980年代半ば以降、敵対的買収を難しくする企業買収防止法が33の州で成立した。そうした法律が成立したおかげで、CEOの仕事は少しばかり楽になり、ストレスも小さくなった。
従業員をめぐる折衝や、工場群の閉鎖に関しては、CEOが敵対的買収ほどストレスを感じていないことは、科学的証拠により示されている。基本的にCEOは、敵対的買収が迫っていて睡眠を奪われる時以外は、それほど多くの苦渋の決断を下す必要はなく、仕事で感じるストレスが小さい。
この調査では、CEOの誕生日と死亡日を調べて分析したところ、CEOが買収防止法に守られている場合には、寿命が2年長くなることがわかった。言いかえれば、調査報告書の表現を借りると、「一般的なCEOにとって、買収防止法の効果は、そのCEOを2歳若返らせるに等しい」ということだ。
買収防止法が存在し、敵対的買収の脅威が減少すると、CEOたちの睡眠は改善するように見えるだけではなく、実際に寿命が延びることが、データにより示されている。そして、死亡率に有意な影響を与えるのは、買収防止法の有無だけではない。
調査対象になったCEOのうちおよそ40%は、業界全体にわたる低迷期を経験していた。業界全体にわたる低迷期とは、「業界全体で、2年間にわたって株価が30%下落する」状態と定義されている。たとえば、2000年代後半のグレートリセッション(大不況)では、多くの業界がそうした低迷に陥った。
この調査では、業界全体にわたる低迷を経験すると、CEOの寿命が1.5年縮むことがわかった。1.5年ならたいしたことはない、などと考える人が出ないように、報告書の著者グループは、強力な比較対象を提示しながら次のように述べている。「30歳までの喫煙は、およそ1年の寿命短縮と関連している」
研究者らは最後に、グレートリセッションの際に業界全体にわたる打撃を経験したCEOたちの写真3000枚超を、最先端の機械学習(畳み込みニューラルネットワークなど)を用いて分析した。目に見える老化の兆候を検出できるソフトウェアを用いたこの分析では、その時期に業界全体にわたる低迷を経験したCEOは、業界が苦境に陥らなかったCEOと比べて1歳ほど老けて見えることが明らかになった。米国大統領の就任時と退任時の写真を並べて、どれだけ老けたのかを目の当たりにしたことのある人なら、目に見える老化の兆候がどんなものなのか理解できるだろう。