家族構成や出生率、死亡率といった人口にかかわる統計などから、歴史的変化を分析し、未来を「予言」してきた。冒頭の謳い文句は、彼の日本での最新作『エマニュエル・トッドの思考地図(以下、思考地図)』(筑摩書房)の帯に書かれている。
この混沌極まる世界で、どうすれば予測できない未来と向き合うことができるのか。次々と「予言」を的中させたトッドの思考方法について初めて本人が語った同著は、多くのビジネスパーソンの支持を得てAmazonの「現代思想」のカテゴリーで1位にもなった。
今回は、この『思考地図』の翻訳を担当したパリ在住の研究者でトッドの親しい友人でもある大野舞に通訳を依頼し、トッドにインタビューを実施。同著はトッドが口述したものを大野が書き起こして書籍化したもので、ふたりの二人三脚で生まれた本だ。本に込めた日本へのメッセージを聞いた。
サバイバルスキルとしての勇気
「私はこれまで学術書にしろ、ほかの書籍にしろ、私の外にある世界について書いてきました。私個人として自分が何者かということについて語ったのは初めてです」
同著は、完全日本語オリジナル作品で、大野が日本人の読者を想定しつつ、語られたことのない本人の話を聞き出した。
トッドは何者なのか。
1951年にフランスで生まれたトッドの父はジャーナリスト、祖父は著名な作家のポール・ニザンで、インテリ階級の家庭で育った。パリ政治学院を経て、英ケンブリッジ大学にて歴史学で博士号を取得した国際派のエリートだ。初めて世界の注目を集めたのは弱冠25歳のとき。歴史人口学を研究していたトッドは、ソビエト連邦崩壊の15年前、ソ連が大国として君臨していた時代に、幼児死亡率の増加と出生率の減少傾向をもとにソ連崩壊を予言。当時は疑念を向けられ、批判の的となった。
その後も、歴史人口学や統計を駆使して、共産主義体制と家族システムの関係性を明らかにし、リーマン・ショックやイギリスのEU離脱などを予測。当時の常識から外れたトッドの言説や予測は当初、社会の拒絶や痛烈な批判を受けたが、その多くは後に正しいことが証明された。