世界的知識人、エマニュエル・トッドに聞いた

エマニュエル・トッド


歯に衣着せぬコメントや社会を鋭く分析するエッセーで、世界的に注目されるフランスの知識人であり、まさに帯のキャッチコピーのような「現代最高の知性」と呼ぶにふさわしい人物だろう。日本でもベストセラーになった『帝国以後』をはじめとする複数の邦訳書が刊行され、愛読者が多い。

『思考地図』では、トッドが自分の人生を振り返りながら、数々の歴史的な「発見」や「予測」を可能にした、自身の思考を「インプット」「着想」「検証」「分析・洞察」「予測」の5つの過程に分けて詳しく説明している。

まず圧倒されるのは、膨大なインプットだ。「私にとって考えるというのはデータを蓄積するということ」(『思考地図』より)と述べている通り、領域横的にさまざまな文献を読みあさり、統計データや地理的情報、経験を徹底的に積み重ねる。「自分のなかに図書館をつくる」のだという。

そうして自分の脳を「データバンク」のようにしたうえで、膨大なデータから仮説を立ててモデル化し、検証して分析。法則を見いだして学術書として発表したり、そこから予測をしてエッセーや社会に向けた発言をしたりする。

こうして新たな学説や見方を生み出し、世に発表するとき、最後の最後に必要なのは何か。それは「勇気だ」とトッドは指摘する。「決断し、結論づける勇気」、「自分が誤っているかもしれないというリスクも含めて決断するという勇気」、「正しかろうが間違っていようが人々から向けられる怒りや批判に向き合う勇気」。そういった勇気が必要になるというのだ。

この勇気こそ、トッドに学術的功績をもたらしたものであり、混沌の時代を生き抜くためのサバイバルスキルではないだろうか。

勇気はどのように培われるか


新型コロナウイルスの感染拡大対策や東京オリンピック・パラリンピック延長をめぐる政府の動きを見ていれば、この「決断する勇気」「批判に向き合う勇気」が日本社会に欠けていると思わざるをえない。

政府だけではない。同調圧力が強い日本社会で、年功序列型の日本企業で、どのようにそういった勇気を養い、発揮することができるのだろうか。

「いま、日本は社会の『規範』が厳しすぎると感じるかもしれませんが、それは歴史のあるフェーズにすぎません。戦後、完璧な社会を目指すなかで培われてきた規範であり、日本社会がずっとそうだったわけではありません。例えば江戸時代には異なる規範意識がありました」

確かに、日本社会を縛る現在の規範もその厳しさも時代によって変わるものであり、いま同調圧力が強いように感じるのも一時のものかもしれない。重要なのは社会にあらがう勇気をどう培うかだ。
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インタビュー=成相通子 イラストレーション=山崎正夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.081 2021年5月号(2021/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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THINKERS「混沌の時代」を生き抜く思考

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