ビジネス

2021.03.25

「脱密」支払い機能で大ブレイク。時代の要請に応える起業家の哲学

シフト・フォー・ペイメンツ創業者兼CEOのジャレッド・アイザックマン


そして14年、機が浮上した。かつての雇用主である決済会社MSIが買い手を探し始めたのだ。アイザックマンは自身の決済会社を、2億7900万ドルで投資会社に売却し、そのキャッシュでMSIを買収した。さらに17年には飲食業界向けのソフトウェア企業3社を買収し、デニーズなどを含む10万社近い企業顧客を取り込んだ。

そして同年11月、シフト・フォー・ペイメンツを買収し、社名を引き継いだ。プロゴルフのPGAツアーや老舗ホテルを顧客に持つ同社の買収で、アイザックマンの決済会社の取扱高は一気に膨らんだ。

ドラケンの事業でも成功を収めたアイザックマンは、数億ドルの資産と壮大なIPO計画と共に20年を迎えた。

想定外の“乱気流”に襲われたのはそんなタイミングだった。20年3月中旬、アイザックマンはニュージャージー州のシフト・フォー社の本社で、幹部らと会議室にこもっていた。新型コロナウイルスによる打撃で、S&P500は87年以来最悪の暴落を記録し、株式市場は2週間で3回の取引停止を起こしていた。

上場を控えたシフト・フォー社の投資家向け説明会は翌週に予定されていたが、実現の可能性は1分ごとに低くなっていく。3月の最終週には、飲食分野の顧客の決済額が、前月比で約70%減少し、ホテル分野の減少幅は80%を超えた。それでもアイザックマンは空席だらけのオフィスで連日16時間働いた。

顧客の経営破たんを防ぐため、手数料を3カ月間免除し、買い物客が企業を支援するサイトを立ち上げた。さらに、非接触決済用のQRコードを発効し、飲食店のオンライン注文への切り替えを促進した。

努力のかいあってシフト・フォー社は早々に息を吹き返した。飲食業界の決済額は、5月には3月のどん底から45%回復した。6月には待望のニューヨーク市場でのIPOを実現し、7月の決済処理件数は前年同月比25%増の過去最高を記録した。

仕事を離れて一息つきたくなると、アイザックマンは愛用のミグ戦闘機で空を飛ぶ。「長い戦いになることを覚悟している」と話すアイザックマンは恐れてなどいない。

「世界はきっと息を吹き返すはずだ」


ジャレッド・アイザックマン◎シフト・フォー・ペイメンツ創業者兼CEO。15歳でウェブサイト制作会社を創業後、祖父から借金をして1999年に決済処理サービス「シフト・フォー・ペイメンツ」を実家の地下室で立ち上げた。2020年にはニューヨーク証券取引所に上場している。仕事の合間は趣味で戦闘機を操縦しており、12年に戦闘機パイロット育成企業「ドラケン・インターナショナル」を立ち上げた連続起業家でもある。

シフト・フォー・ペイメンツ◎1999年創業の決済処理企業。創業者はジャレッド・アイザックマン。レジとカード決済を一体化させた機器「ハーバータッチ」が飲食・ホスピタリティ業界を中心に使われ、年間の取り扱い高は2000億ドルに及ぶ。2020年6月、ニューヨーク証券取引所上場。コロナ禍を受けて、現在は飲食店の非接触決済用への切り替えを促している。

文=ジャコモ・トニーニ 写真=ティム・パネル 翻訳=木村理恵 編集=上田裕資

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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