コロナ禍で外出が制限されると、多くの企業がオンラインに商機を求めるようになった。なかでも、積極的だったのが直撃を受けた飲食や小売り、ホスピタリティ関連の会社だ。eコマースやテイクアウト、デリバリーといった事業にも取り組むことを余儀なくされた彼らが目を向けた会社に、米決済処理企業「シフト・フォー・ペイメンツ」やeコマースサイト「ショッピファイ」がある。
ただ、これらの会社の躍進をコロナ禍だけに求めるのは早計だ。いずれも、来たる小売業の未来を見据えて十数年かけて準備してきた。たんに時の運ではなく、成功しているだけの理由があるのだ。
「飛行できる時間は限られているんでね」
ジャレッド・アイザックマン(37)はそう話した。ペンシルベニア州にあるシフト・フォー・ペイメンツの本社にいる彼と電話で話していたときのことだ。
たまの休日には、ミグ戦闘機で空を飛ぶという彼は、その翌朝モンタナ州の自宅へ向かう予定だった。
子どものころから「生きているうちにできる限りすごいことをやってやろう」と思ってきた彼は、人生を全力で生きている。
1983年生まれの彼は15歳で事業を始め、その1年後に高校を中退。28歳の時に空軍のパイロットを訓練する企業を創業し、数年後に投資会社に売却。数億ドルを稼いだ。そして2020年6月、決済会社のシフト・フォー・ペイメンツ(以下、シフト・フォー社)をIPO(新規株式公開)させた彼は、30代でビリオネアの仲間入りを果たした。
ツイッターのジャック・ドーシーの簡易決済企業「スクエア」の主な顧客はカフェなどのスモールビジネスだが、シフト・フォー社はKFCやヒルトンなどの大手を顧客とし、年間の取り扱い高は2000億ドルに及ぶ。
アイザックマンの現在の資産額は約14億ドル。その大半が6月に上場したシフト・フォー社の株式だが、趣味で操縦する9機の戦闘機を含むそのほかの資産も約1億ドルに及んでいる。そんな彼は、子ども時代からアドレナリンが噴き出すような興奮を追い求めてきた。
ニュージャージー州のファーヒルズという小さな町で育った彼は、15歳で地元の友人と共にデコー・システムズというウェブサイトの制作会社を立ち上げた。最初の顧客が、マーチャント・サービシズ・インク(MSI)という決済処理会社だった。同社の仕事をフルタイムで任されたアイザックマンは、16歳で高校を中退した。
MSIの主な事業は、磁気ストライプ付きのカードを通す、ごつい決済端末を地元の商店に販売することだった。
「当時は、地元のピザ店がカード決済を導入するときも、不動産のローン申し込みと同じ量の書類が必要だった」と彼は話す。
仕事を始めてから半年後、アイザックマンはこのプロセスをもっと速く簡単にできると考えた。そしてMSIを辞め、後の決済ビジネスの原型となるユナイテッド・バンク・カードを設立した。