後部座席を備えた2+2クーペとしての新しい価値を付与

エクステリアの特徴は、クリーンで控えめなデザイン。方向性はスポーツよりもフォーマルなミニマリズムを志向し、 余分な装飾や大きなエンブレムは排除。乗る人を包み込む独立形状のシートもラグジュアリーだ。

プライベートな空間の価値が高まるなかで、ライフスタイルの多様化に応えるように各社が最上級のラグジュアリーを提案する。


Ferrari Roma


面白い時代がやってきた。内燃機関(ガソリンエンジン)あり、ハイブリッドあり、電気自動車あり、とパワートレインが多様化している。さらに、スポーツカーの進化の方向の一つとして、ラグジュアリーであったり日常使いを強調するモデルも続々と生まれている。過渡的な状況とみることも出来るものの、いまだからこその幅広い選択肢を楽しむのも、悪くないように思う。

2020年に日本に上陸した「フェラーリ・ローマ」は、高回転までストレスなく回る8気筒ガソリンエンジンの魅力を堪能できるスポーツカーに、後部座席を備えた2+2クーペとして新しい価値を付与するものだ。1949年の創業以来、フェラーリが市販スポーツカーで目指してきたクルマづくりに、日常使いやグランドツーリングという観点を盛り込んだものでもある。

特に「ローマ」は、スタイリングコンセプトが秀逸。古くて新しい、といえばいいのか、伝統的なモチーフと、最新のテクノロジーを合体させてクルマ全体では豪奢な印象を与えることなく、むしろミニマルな洗練された上質さを表現するものとなっている。

製品コンセプトは、メディアでもさんざん喧伝されているとおり、「La Nuova Dolce Vita」「新しい甘い生活」。フェデリコ・フェリーニ監督が、ローマの有閑階級の暮らしぶりに材をとった映画「甘い生活 La Dolce Vita」(1960年)のイメージを敷衍(ふえん)している。当時、チネチッタと呼ばれたイタリア版ハリウッドがあったローマだけに、各国から俳優をふくめた映画人が集まり、コンドッティ通りを中心に、夜を徹して遊びまわっていた。そんな“よき”時代が各国の都市にあったこと、そして当時の豊かなライフスタイルを想起させるのが、「フェラーリ・ローマ」の狙いだ。

繊細なハンドリングを含めて走りは素晴らしい。一方、クルマの楽しみとは、高速道路や山岳路だけでない日常にある、と訴えかけてもいる。こんなラグジュリアスなクルマはフェラーリにしか作れない。

text by Fumio Ogawa

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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