孫子の兵法、ブリンケン長官にあり

米国のブリンケン国務長官(左)とオースティン国防長官(中央)(Photo by Kiyoshi Ota/Bloomberg/Pool/Anadolu Agency via Getty Images)


元米政府当局者は、楊潔篪氏が猛烈に反論することも、ブリンケン氏たちは計算していたと説明する。

中国の恫喝外交は過去にも例があまたある。昨年11月、訪日した王毅氏は茂木敏充外相との共同記者会見で、「引き続き自国の主権を守っていく」などと語り、尖閣諸島の所有権を主張した。16年7月にラオスで行われた中韓外相会談では、王毅氏が冒頭に、米軍の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の韓国配備を念頭に「韓国の最近の措置は両国の信頼の基礎を傷つける行為だ」と一方的に非難した後、記者団を退出させてしまった。日本も韓国もその場で反論できずに終わった。

元韓国政府高官は「ブリンケン氏は中国がどういう反応をするか予想していたと聞いた。元々、クローズドの席で伝える内容を急きょ、オープンの席で伝える方針に切り替えたのだろう」と語る。

まさに、「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」という孫子の兵法を地で行くやり方だった。元韓国政府高官はブリンケン氏の外交手法について「meticulousでsystematic。このやり方は、いつも相手の隙を突こうとする中国や北朝鮮が一番嫌がるやり方だ」と評価する。

同盟国として頼もしい限りだが、日本も韓国ものんびりとはしていられない。まず、韓国だが、地政学的な事情もあって米国と中国との間で洞が峠を決め込んできたが、今後はその余裕もなくなりそうだ。米韓2プラス2の共同声明には、「中国」という言葉を外すことに成功したが、直後に行われた共同記者会見で、ブリンケン氏が激烈な中国批判を展開し、逆に韓国の「決められない態度」が浮き彫りになってしまった。

米国はワシントンに戻って、朝鮮半島政策についての評価を改めて行うとしているが、韓国に圧力をかけるか、あるいは少なくとも現在の文在寅政権とは距離を置く姿勢に転じるか、どちらかに向かう可能性が高い。

日本は日本で大変だ。日米2プラス2の共同声明に尖閣諸島を盛り込むことができて幸いだったが、「閣僚は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」という文言も入った。日米2プラス2の文書が、日本が国交を持たない台湾について言及するのは極めて異例のことだ。おそらく、米国が尖閣諸島とのバーターで台湾海峡の文言挿入を要求したのだろう。

「台湾」と言わず、「台湾海峡」という表現にしたのは、国際海峡として日本が関与できるという正当性を残すためのギリギリの判断だったと思われるが、いずれにしても共同文書に載った以上、米国は台湾有事についての日米協議を要求してくるのは間違いない。

自衛隊はミサイル防衛と尖閣諸島だけで青息吐息の状態だし、菅政権は新型コロナウイルスの問題と総務省接待問題で頭が一杯だ。通常国会で安全保障の議論をもっと重ねなくて良いのだろうか。

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文=牧野愛博

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