アップルウォッチの心電図と血中酸素ウェルネス 医師が語るその真価

デジタルクラウンに指を当てて使う、アップルウォッチ「心電図アプリ」(DenPhotos / Shutterstock.com)


五十嵐医師によると、アップルウォッチ外来で脳梗塞の原因となる不整脈「心房細動」が多数見つかった一方、動悸の症状を訴えて来院した若者のこんな事例もあったという。彼をよくよく調べてみると、毎日決まった時間に飲むエナジードリンクによる薬剤性の不整脈だった。ただ、危険な不整脈かどうかも医師が診察してみないとわからないことだ。

また、田村医師によると、息切れを訴えて来院した患者を診たところ運動不足が原因のことも多く、その場合は運動するよう勧めるという。異常があって、調べてみて、問題がないものであればそれでいいのだ。

健康に不安を感じて病院に行くならよいのだが、病気はあるのに無症状であったり、そんなに苦しくない場合もしばしば起こる。人間の身体は変化に慣れてしまい、不整脈も低酸素状態も日常になれば症状を感じなくなってしまう。田村医師が説明によく使う例が、漁をする海女さんだ。海女さんは訓練で低酸素状態にある程度慣れてしまうことによって、潜水して長い時間息を我慢できるようになる。

新型コロナウイルスによる肺炎で注目された「ハッピーハイポキシア」(幸福な低酸素状態)も軽すぎる自覚症状の典型だ。原因はわかっていないが、肺炎の進行の割に苦しさを感じない新型コロナ肺炎の特徴を指す言葉で、こうした例を見ても、感覚では捉えられない病状も考慮に入れ、数値測定とそこから検査・診断をしていくことが重要であることがわかる。

働き盛り世代からぜひアップルウォッチを


五十嵐医師は取材の最後に、スマートウォッチの健康機能の普及について語った。健康の異常検出に役立つアップルウォッチをはじめとするスマートウォッチを、ガジェット好きな若い世代だけでなく、不整脈が増え始める中高年の世代にこそ役立ててほしいという願いだ。


アップルウォッチ「心電図アプリ」では洞調律(異常なし)、心房細動、高・低心拍数、判定不能のいずれかの結果が出る。この写真ではAtrial Fibrillation(心房細動)と判定されている。(DenPhotos / Shutterstock.com)

五十嵐医師によると、診察においても30代、40代の働き盛りの年代から心房細動の症例が見られるようになり、その危険性が急激に高まるのは50歳代以降。1回の脳梗塞で寝たきりに直結してしまうこともあり、だからこそ、その原因となる心房細動を早期に発見して治療を開始することは重要になってくる。

スマートウォッチの世代間格差をどう埋めるか。その健康上の効用をアピールすることはもちろんだが、若い世代が親世代などにプレゼントするという展開も生まれてくるかもしれないと筆者は感じた。

血糖値測定機能にも期待は高まる


今後、スマートウォッチの健康支援機能はどのように進化していくだろうか。

先に説明したように、現在アップルウォッチの「心電図アプリ」については能動的に測ろうとしないとデータを取得することはできない。「血中酸素ウェルネス」のバックグラウンド測定のように、能動的に測らなくても勝手にデータがたまっていく分野が血糖値などもっと増えればいいと田村医師は話す。

確かに、アップルウォッチは今まで紹介してきた心電図や血中酸素以外に、血糖値の測定にも対応するのではとの予測もすでに報道されている。今まで採血しなければ不可能だった様々な検査についても光センサーなどを活用して人体を傷つけない形でできるようになり、常時モニタリングに近い体制を多くの人に対して提供できるようになれば、確かに医療は大きく前進するに違いない。

文=縄田陽介

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