パンデミックが米カンザスシティを都市封鎖に追い込むと、ヤン・ビュアージ(68)は手芸店「ワールド・ウィンドー」を一時的に閉店せざるをえなかった。彼女はたちどころに、緊急事態モードに突入した。
「お店の商品を片っ端からネット上で売り始めました」とビュアージは語る。夫とおいの助けを借りながら、彼女はEコマースサイト「ショッピファイ(Shopify)」で商品の販売を開始した。ショッピファイはアマゾン・ドット・コムとは異なり、小規模事業主は月額を払うだけで自分たちのネットショップを開設・運営することができる。売り上げも自分たちで管理できる。実店舗を再開できるめどが立つまで、彼女は毎朝4400の顧客たちに特定の地域について特集したニュースレターを送り続けた。2020年4月21日版は、電話線でつくられた南アフリカ産のカゴだった。
「電話線でつくったカゴなんて売ったの初めてよ。しかも、すごく売れたの。もちろん、家賃を払えるほどではないけれど、家で何もしないで座っているよりははるかにマシよ」と、ビュアージは話す。
ビュアージは、コロナ禍によりオンライン販売プラットフォームを使い始めた無数の個人経営者の一人だ。ショッピファイの新規利用者は20年3月13日〜4月24日だけで62%も上昇した。これらの店は、すでにショッピファイを利用していた100万以上のユーザーと合わせて流通総額(GMV)を46%も高め、20年の第1四半期だけで174億ドルにも達した。
「ショッピファイは、いままで個人事業主にはつくれなかったツールを提供することで、Eコマースを“民主化”しています」と、カナダ・ナショナル銀行でアナリストを務めるリチャード・セは語る。
04年に創業したショッピファイは、小規模事業主が自分たちのECショップを開設し、広告バナーを貼り、決済処理し、受発注管理などを月額29〜299ドルにクレジットカード手数料を加えるだけでできるようにした。簡単に言えば、ショッピファイは売り上げごとに手数料を取るアマゾンよりも、利益率の高いサービスを提供したのである。いまや、日本を含む175カ国100万以上の小売り店が利用するまでに成長している。
ショッピファイは、コロナ禍で苦しむ小規模事業主を助けるために、ギフトカードやローンのサービスを提供し始めた。共同創業者兼CEO、トビー・リュトケは「新しい現実に顧客が適応できるよう支援すべく、ツールを再開発している」と話す。
「私たちの目標は、ショッピファイを活用して難局を、より多くの起業家や小規模事業主が乗り切れるようにすることです」
トビー・リュトケ◎カナダ発のEコマースサイト「ショッピファイ」の共同創業者兼CEO。スノーボードのオンライン販売サイトの立ち上げを経て現職。20年現在、175カ国で100万以上の顧客が同社を利用している。