「共感資本」で街が変わる FC今治・岡田武史の「里山スタジアム」構想

FC今治オーナー 岡田武史 (c) FC IMABARI


里山スタジアムは今治市から無償で借用した土地に、今治.夢スポーツが費用を自己負担し、建設する。Jリーグに所属するクラブの中でも、fiスタジアムを所有しているのは柏レイソルとジュビロ磐田、FC今治などの4チームのみ。公園法に掛からない場所での運営が可能なため、スポーツ以外の独自の取り組みをしやすい。

FC今治 里山スタジアム 構想
里山スタジアムは、試合のない日も公園でくつろいだりキャンプしたりできる場所を構想している=今治.夢スポーツ提供

岡田が里山スタジアムの集客ターゲットとして捉えているのは、今治市の15万人の人口に加え、スタジアムから100km圏内に住む人々。そのために必要なのが、スタジアムで半日過ごすことができる仕組み。モデルは、イタリアのサッカーチーム「ユヴェントスFC」だ。

ユヴェントスの拠点として2011年にオープンした「アリアンツ・スタジアム」は、それまで使用していたスタジアムから収容人数を減らし、ショッピングモールなどを併設する複合施設としての機能を充実させた。すると、観客の滞在時間が長くなり、100マイル以上離れた地域から訪れる客数の割合が増加したほか、収益にも良い影響が与えられた。

里山スタジアムも、地域住民の活動拠点としての設備を整え、ホテルや店舗のほか、企業のショールームとして活用するなど可変性があるVIPルームを導入することで、複合施設としての機能を充実させる。また、環境に配慮し、ボイラや水処理、産業機器などを手がける三浦工業(本社・松山市)が燃料電池と水処理の二重化システムを提供し、防災拠点として活用できるようにする予定だ。

岡田は「お金があれば、既存の造り方でいこうと即決していたかもしれない。うちはお金がないから、その中でできる方法を考えているんですよ」と笑いながら話すが、制約があるからこそ生まれた発想が、独自の魅力を持った施設づくりに繋がっている。

また、これからはコロナ禍で変化するスタジアムに求められる役割やスポーツ観戦の変化に対応していくことも検討しているという。

「これからスポーツ観戦は多様化してくるなと感じています。VRなどテクノロジーを活用した新たな観戦方法で楽しむ人がいる一方で、スタジアムの熱気や雰囲気を味わうことを重要視する意見も出てくると思う。また、スタジアムで観戦する人が個室のVIPルームで見る人たちだけということもあるかもしれない。それぞれのニーズに応えられるように、多様化に順応していく必要がありますね」

次世代にどんな社会を残していくか


岡田武史
オンラインで取材に応じる岡田武史 「共感資本」を軸に据えた経営を展開する思いは?

事業性や収益を十分に考慮しながら、アイデアを膨らませ、趣向を凝らした取り組みを展開している岡田。時には、そうした経営方法と企業理念として掲げる言葉に違和感を抱いた人から「矛盾していないですか?」と聞かれることも少なくないという。しかし岡田は「決して僕の中では矛盾していないんですよ」と話す。

「どうしても必要最小限の生存競争は必要になると思っています。収益を上げていかないと会社を存続することは難しく、従業員に給料を払うことができない。でも一方で、企業理念として掲げている内容を超えてまで、収益を上げる必要はありません。我々はそのコントロールやバランスを意識しながら、企業理念やミッションの実現に向けた範囲の中で、収益を考えながら事業を行っているんです」

サッカー指導者から経営者に転身し、自らのルーツを振り返り設定した企業理念は、岡田の価値観そのもの。その理念に沿ったクラブ運営や新スタジアムの建設は、次世代に向けた岡田の思いが詰まっている。

「僕には3人の子供と孫がいてね。ひとりの父親として、今の社会を残して死んでしまっていいのだろうかと考えているんですよ。地球を救いたいとか壮大なことまでは考えていないけど、次世代にどんな社会を繋いでいくか、そこに貢献する使命がある。その思いを一番強く持っているんですよ」

文=宮本拓海 構成=督あかり

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