「共感資本」で街が変わる FC今治・岡田武史の「里山スタジアム」構想

FC今治オーナー 岡田武史 (c) FC IMABARI


なぜ岡田が経営者としてぶれずに事業を展開できたのか。それは意外にも、経営の基本を徹底してきたからだった。

今治.夢スポーツでは企業理念として「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会づくりに貢献する。」と掲げている。行政や企業、地域住民から信頼を得ながら、共に事業を進めるために意識しているのは「目に見えない資本を大切にする」こと。思い悩むことがあっても、常に自分たちの理念や目指す姿に立ち返りながら事業を行ってきた。

また企業や行政に働きかける時、岡田は「営業をしない」スタイルを貫く。「お金を出してほしいとは言わず、『こういうことをやりましょうよ』と構想を語る。信頼しなければお金は出したくないですよね。何よりもまず、信頼感が大事。人が共感したり、応援したくなるものにお金が支払われる。この点は、コロナ禍でよりはっきりしました」

今では、FC今治にはスポンサーやサポーターを含め、事業に共感し、関わりを持つ人が多く集まっている。現在スポンサー契約を結んでいるのは、今治造船などの地元企業やユニ・チャーム、三菱商事などの県外に本社を置く企業、合わせて300社以上。コロナ禍でもスポンサー契約を解除した企業は少ないという。

また、日本人指導者を派遣する提携事業を行っている中国サッカークラブとの契約も、昨年はコロナ禍であることを理由に指導者を半年間派遣することはできなかったが、「我々は岡田から『信頼』ということを学んだ。今回はそれを返す番だ」と相手から報酬の全額が支払われた。岡田は「これまで自分たちが続けてきた信頼を積み重ねていく考え方が間違っていなかったんだなということを実感できています」と語る。

信頼や共感がこれからの資本となる──。そもそも岡田が現在の経営理念につながる考えを持つようになったのは、40年以上前、学生時代に手にした1冊の本から環境問題に意識を持ち始めたことがきっかけ。

「当時はどれだけ広い海に汚水を流しても、広い空にガスを排出しても、全然平気だと考えられていた時代。そんな中で『成長の限界-ローマクラブ「人類の危機」レポート』には、汚水や排ガスに対して地球に限界があることが書かれていた。その事実に驚いて、さらに深堀りして調べたら、それが本当であることがわかって。それから環境問題にまつわる活動に関わり始めました」

大学卒業後も、プロサッカー選手や指導者を務めながらNPOなどに所属し、活動を続けた岡田。すると今度は環境問題だけでなく、資本主義社会に対して行き詰まりを感じるように。そこで、自身の「メンター的存在」という田坂広志氏(多摩大学大学院名誉教授)のもとへ相談に行くと「目に見えない資本にお金が回る社会になることで、今ある問題は起こらない」と言われ、共感した。

そんな考え方から、FC今治ではサッカーだけでなく、地域のスポーツの活性化や、野外教育、環境教育などにも注力してきた。

岡田武史
野外教育で家族連れを見守る岡田武史(右)=今治.夢スポーツ提供

制約があるからこそ膨らむ、新スタジアム構想


新たに建設される里山スタジアムでは、土手を畑にして、傾斜地を利用してワインづくりのためぶどうを育てるなど、岡田の構想は膨らんでいる。このようなことの実現可能性があるのは、プライペートスタジアムであることが大きな理由のひとつだ。

「自分たちでスタジアムを持って、試合観戦以外に収益を挙げるための要素を多く持つことが、これからのスポーツビジネスにとっても大事なことだと思っています」と岡田は語る。
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文=宮本拓海 構成=督あかり

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