ビジネス

2021.03.18

「得るために、捨て続ける」 ビジョナル 南壮一郎の歩む人生

Visional代表取締役社長 南 壮一郎


「僕は臆病で、徹底的に情報収集して、やるべき必然性が見つかってからでないと最初の一歩を踏み出せない。インターネットで日本人のキャリアの選択肢と可能性を可視化しようとビズリーチを立ち上げたのも、楽天を辞めて世界を1年間回り、いろいろ情報収集した後でした」

熟慮の末に起業しただけあって、ビズリーチは順調に成長。サービス開始から10年目の2019年には、売り上げが200億円を突破した。

「まだ世の中を変えるところまでいってない。変える可能性のある事業をようやくスタートラインに乗せたところです」

自社の成長について辛口評価だが、ならば創業者として引き続き事業を引っ張っていくのが自然な流れだったろう。しかし、南は今回のホールディング化を機に、事業会社になったビズリーチから手を引き、「大きな組織を通じて社会にインパクトを与えることについては、僕より優秀」と現経営陣に経営を委ねた。

実は組織再編や経営陣の交代は、突然降って湧いた話ではない。5年前から構想して現経営陣に権限を委譲。その結果を踏まえたうえでグループ経営体制へと移行した。自ら変化を起こす大胆さと、石橋を叩いて渡る慎重さ。相反するメンタリティを同居させる南らしい決断だ。

祖業から手を離したいま、新たに何をつかもうとしているのか。グループトップとして引き続き全体を見ていくが、本人がいま最も熱を入れているのは新規事業だ。事業承継M&Aのプラットフォーム事業や、物流プラットフォーム事業、サイバーセキュリティ事業など、新規事業は南が最前線で指揮を執る。この取材の直前にも、社員がまだ5人のサイバーセキュリティ事業で自ら中途採用の面接をやってきたという。

「朝7時半に家からビデオ会議で面接しました。妻からは『グループの社長なのに、またやるつもり?』と笑われました。また振り出しに戻りましたが、結局、この徒労感が好きなんでしょうね(笑)」

口では「大変だ」を連発する南。しかし、その表情から苦労の様子がうかがえないのは、新しい挑戦を心から楽しんでいるからだろう。


みなみ・そういちろう◎1999年、米・タフツ大学卒業後、モルガン・スタンレー証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)入社。2004年から東北楽天ゴールデンイーグルスの創立メンバーとして携わった後、2009年、ビズリーチを創業。2020年2月より現職。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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