ビジネス

2021.03.19

小規模クリニックにPCR検査が集中する理由

リンクウェル代表取締役 金子和真

「具合が悪い人に対して『自宅で待機して』とは言いたくなかったんです」

そう語るのは、医師であり、ヘルステック・スタートアップ、リンクウェルの代表取締役でもある金子和真だ。同社は、新型コロナウイルスの感染が疑われる患者を診療する「発熱外来」をクリニックとしていち早く設けたクリニックフォアグループをプロデュースしている。

東京都内の2020年5月から8月までのPCR検査で、同グループは小規模なクリニックながら総検査数の約1割を行い、東京都から感染症指定医療機関に認定された。なぜ町のクリニックが、発熱患者のニーズに答えられたのだろうか。

新型コロナの感染が日本で広がり始めたころ、どの病院がPCR検査を行っているかは公にされず、保健所は「風邪の症状や37.5°C以上の発熱が4日以上続く」など厳しい条件を満たす人にしか紹介していなかった。感染の疑いがあり、不安に感じている人が駆け込める場所がなかったのだ。

その状態を問題視した金子らクリニックの職員たちは、保健所と医師会に掛け合い、それまで大きな病院にしか置かれていなかった発熱外来をクリニックに設置。保険診療でPCR検査を行えるよう交渉した。同院は、5月初旬から検査をはじめ、多いときには、一日300件近くの検査数を報告している。

「総合病院には入院患者が多く、PCR検査が大きな負担になる。一方、多くのクリニックは、いままで通っていた患者さんがコロナを忌避して来院せず、既存の経営に大きなダメージを与える可能性が高いから、発熱外来をもちたがらない。クリニックの開業医の高齢化も顕著ななかで、相対的にリスクの低い20、30代のスタッフが多い我々が、先陣を切っていかなければと思いました」

デジタル×クリニックにできること


クリニックフォアグループは、デジタルを活用した次世代のクリニックチェーンだ。日中は多忙な働く世代の人たちが通いやすいよう、平日は21時まで、土日も診療を受け付けている。患者はウェブ上で診療の予約や事前問診をしたり、オンライン決済をしたりできる。そのシステムが同院のコロナ禍の診療を特筆すべきものにした。

予約の管理で待合室の人数をコントロールし、発熱患者の院内滞在時間は10分以下で済ませるオペレーションをつくり上げた。また、検査結果はウェブ上で閲覧できる。陽性であれば保健所と連携してすぐに電話をするが、陰性であれば、患者は検査結果を聞くために病院へ来たり、電話を待ったりする必要がない。クリニックの連絡コストも大幅に軽減した。

クリニックの環境も患者の受け入れに一役かった。発熱患者を多く診察する港区の田町院は、同院の手がける内科・皮膚科・トラベルクリニックなどが、同じ建物内にありながら、それぞれ別の出入り口を持った診察室で運営している。屋外の廊下から直接入室するため、院内をゾーニングして、安全に発熱患者の診察を行っている。

医師であり経営者でもある金子は、クリニックをデジタル化するシステムを開発してきた。目指すのは、誰もが簡単に医者にかかれる社会だ。課題の多い日本の医療環境を変えようとするその取り組みと志が、コロナ禍にも功を奏した。

文=揚原安紗佳 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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