テクノロジー

2021.04.06 08:30

DXで遅れを取る日本の金融機関。数百人のエグゼクティブとの対話からその真因に迫る

photo by Shutterstock.com

日本の金融機関はデジタルトランスフォーメーション(以下DX)に向けた取り組みを強化しているが、欧米に比して大きく遅れを取っているのが実情である。

一体何がDXを阻害しているのか、具体的に何が必要なのか。この点について、数百人に上る日本の金融機関のエグゼクティブとの対話を通じて見えてきたものがある。今回はその最たるもの3つを紹介したい。

1:「顧客目線」を捉えなおす
そもそも「顧客目線」で自社の商品・サービスを考えている人がいない。「顧客目線」の取り組み自体が形骸化していないか

2:自前主義からの脱却
自社のリソースだけで実現できることには限界がある。過度な自前主義がDXのスピードとインパクトを阻害

3:フラットなリーダーシップ
掛け声だけのDXを唱えるのは終わりにすべき。リーダーが現場と密に対話し、具体的な変革をドライブする勇気とコミットメントを持てるか

金融機関のDXの現在地


金融機関にとってDXは最も重要な経営課題の一つであり、各社が競って取り組みを強化している。新型コロナウイルスの影響もあり、各種手続きのオンライン化、リモート面談等の施策が金融機関において進んでいるのはご存じの通りであるが、これらはこれまでのIT化の取り組みの延長であり、本質的なビジネスの変革につながっているとは言い難い。

なぜ日本の金融機関はDXを満足に推進することができないのだろうか。また、何が具体的に必要なのだろうか。

私はこの点について、2020年以降、300名以上の金融機関のエグゼクティブと対話を重ねてきた。DXが思うように進まない理由や求められる対応も一様ではないのは事実である。ただ、私が数々のエグゼクティブの皆さまとの対話を通じて、DXを進める上での要諦として見えてきたものがある。

1:「顧客目線」を捉えなおす必要がある


仕事柄、日本の金融機関のDXの取り組みに関して幅広く理解しているが、その多くはデジタル化による事務効率化、営業生産性向上などの社内の効果的なリソース活用を目的とするものである。

それらの目的自体を否定すべきものではないし、重要な取り組みではあるのだが、あまりにも顧客に向いた議論が少ない。確かに社内の効率化に関する議論の方が、成果を「定量化」しやすいし、関係者の合意形成も得られやすいだろう。しかし、それは現状のビジネスの改善にはつながるが、変革をもたらすものではない。

金融機関には既に多くの顧客の声が届いているにもかかわらず、なぜ顧客向けのサービスの変革が進まないのだろうか。理由は極めてシンプルである。顧客目線で考える人が決定的に少ないのである。これは私だけでなく、多くの金融機関のエグゼクティブが同意する点である。もちろん金融機関各社には顧客向けのサービスなどを企画するチームがあるが、実際に顧客の声に耳を傾け、顧客が実際に触れているサービスやウェブサイトを実体験し、顧客のために実現すべきビジネスの将来像を真摯に考えている人がどれだけいるだろうか。

例えば、弊社が行ったAccenture Wealth Management Surveyのアンケート調査によると、金融機関の情報提供に関して、実に半数以上の56%の顧客が満足していないことが明らかになった。この調査のメインターゲットが富裕層であり、既に金融機関の担当者が付いているケースが多いことを勘案すると、この数字はかなり深刻に受け止めるべきだろう。

また、その顧客が不満足である主な理由は、一般的な情報しか得られない、情報量が多すぎてポイントが不明確といったものであり、顧客目線での情報発信・コミュニケーションが出来ていない典型例と言えるだろう。
次ページ > 自前主義は限界というのが常識

文=武藤惣一郎(アクセンチュア)

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事