DXで遅れを取る日本の金融機関。数百人のエグゼクティブとの対話からその真因に迫る

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3:経営層に求められるのはフラットなリーダーシップ


これまでエグゼクティブの方々、特に経営層と対話する中で、DXの重要性は認識しているものの、「本腰を入れては推進できていない」、「具体的なアクションにまで落とせていない」といった本音が聞こえてくることも少なくなかった。

なぜこうした事態に陥るケースが後を絶たないのだろうか。多く見られるのは、経営層がDXの先に実現したいビジネスの将来像を示せていないことである。「デジタル化(=D)」はあくまで手段にすぎない。その先に見据える「変革(=X)」の方向性を示さなければ、いくらDXを推進する重要性を説いたとして、足元の限定的なオンライン対応等にとどまってしまうだろう。

一方で、リテール、ホールセール、そしてコーポレート部門等においてそれぞれの「変革(=X)」の方向性を描きそれに必要となる「デジタル化(=D)」を推進していくためには、経営層だけでなく現場のマネジメントや担当者が意欲的に発想し、推進することが欠かせない。経営層には、現場の声に積極的に耳を傾け、彼らが自発的に発想して意見することを促し、それをスピーディーにアクションにつなげるサポートをすることも求められる。

時に見られるケースとして、経営層は部下にDXの報告をさせ、実際にどんなサービスやアプリケーションが仕上がっているのか具体的には分かっていない、もしくは分かろうとすらしていないことがある。ここまでひどいケースは最近では減っているかもしれないが、程度の差こそあれ、多くの金融機関で実際に確認されてきた。

経営層が熱意を持って取り組むものであれば、報告を待つのではなく、自ら現場に足を運んでイメージを伝える、または試作品に触れてレビューするといった取り組みがなされるべきだろう。そうした経営層には現場の担当者も密に連携・相談するため、形式的な報告はもはや必要ない。DXを推進する経営層には、変革の方向性のビジョンを示しつつ、現場との距離を狭め、具体的な案件を一緒に汗をかいて推進するフラットなリーダーシップが求められている。

大規模な投資よりも先に発想と取り組み姿勢の転換を


ここまで見てきた「(1)顧客目線を捉えなおす」、「(2)自前主義からの脱却」、「(3)フラットなリーダーシップ」の3点は、DXに関して重ねてきた対話の一部にすぎないが、どれもDXを本質的なビジネス変革につなげるための欠かせない要素になっている。そして何より、対話させていただいたエグゼクティブの皆さまが共感し、実際に行動を起こしてくれているポイントである。

どれも大規模な投資や長期間の準備は必要としないものだが、実現するのは決して容易ではない。何よりも経営層が自社のDXの在り方を見つめ直さない限りは実現しない。見方によっては、派手さのないスモールステップに見えるかもしれないが、大規模な投資計画を策定するよりも真っ先に必要なのは、上記で見てきたDXの発想と取り組み姿勢の転換である。既にほぼ全ての日本の金融機関がDXを推進しているが、今一度振り返っていただくことを強くお勧めしたい。DXが掛け声に終わるのか、ビジネス変革につながるのか、大きな分岐点となるはずである。

武藤氏
武藤 惣一郎◎アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 キャピタルマーケット プラクティス アジア太平洋・アフリカ・ラテンアメリカ・中東地区統括 兼 日本統括 マネジング・ディレクター。2005年にアクセンチュア入社後、金融業界にて事業戦略立案、営業改革、システム構想立案等の多数のプロジェクトを主導。近年は証券会社を中心にDX戦略策定およびそれを支える経営変革を推進。アクセンチュアのキャピタルマーケットプラクティスにおけるグローバルリーダーシップの一人。米国ハーバード大学経営大学院PLD修了。

文=武藤惣一郎(アクセンチュア)

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