DXで遅れを取る日本の金融機関。数百人のエグゼクティブとの対話からその真因に迫る

photo by Shutterstock.com


「私たちは顧客目線を捉えなおす必要がある──」顧客を中心に据えたDXが一向に進まない状況を見たある金融機関の役員の言葉である。金融機関が真の顧客目線にシフトするためには、単に顧客の声を収集したり、カスタマージャーニーなどを考えるチームや担当者を据えるだけでは十分ではないのである。その人材が徹底して顧客目線で考え、これまでのビジネスのやり方にとらわれず自由に発想するマインドセットの変革を含めた教育(=人づくり)が欠かせないし、経営者がその声に耳を傾け、部門間の調整を含めて自ら推進していくようなリーダーシップが必要である。顧客目線を捉えなおすことは、古くかつ新しいテーマである。

2:自前主義からの脱却 - 自前主義はすでに限界を迎えている


日本の金融機関の多くにおいて、DXを主体的に推進しているのは自社のシステム部門、そしてシステム子会社であるケースが多い。自社のシステム部門、システム子会社のリソースを有効活用するのは当然だが、これまでに彼らが開発してきた多くのシステムはオーダーメード型のカスタム開発で構築されており、DXの取り組みにおいて積極的に活用が求められるクラウドやアジャイル開発の能力がそこには備わっていないことが多い。

日本の金融機関には自前主義が根強く、どんな取り組みも自ら実現しようという風潮がある。だが、DXに必要なノウハウや人材が不足する中で、過度に自社のシステム部門およびシステム子会社を中心としたDX推進にこだわることは、DXの停滞をもたらす。私が見てきた傾向として、金融機関のシステム部門やシステム子会社は、自社のリテール(個人向けビジネス)関連のシステムには知見・経験値がある一方、ホールセール(法人向けビジネス)には疎いケースが多い。

自前主義を否定するわけではないが、DXをスピーディーかつ効果的に推進するためには自社だけでなく、適材適所で外部のリソース・人材も効果的に組み合わせて推進していくバランス感覚が必要である。特にクラウド活用、アジャイル開発、データアナリティクスといった領域は、外部の専門家と当初はチームを組み徐々に内製化を図ることで、スピーディーなDXを推進しつつ、社内への知見・経験知を蓄積することが可能になる。実際に私はこれまで、過度に自前主義にこだわったために、DXをもっと推進したいにもかかわらず、「予算があってもDXの起案・推進できる人材がいない」といった状況に陥っている金融機関を多数見てきた。

また、ホールセールのような、システム部門やシステム子会社がリードしにくい領域においては、ビジネス部門(実際に顧客にビジネスを展開する部署)の中にシステムの企画・開発ができる組織を作り、DX推進の権限を委譲していく柔軟さも求められている。そうすることによって、ビジネス部門内で顧客・ユーザー・システムが密に連携し、DXが格段にハイペースで進むケースを見てきた。

実際にDXで先行している海外の金融機関では上記のようにビジネス部門の中にIT部隊を抱えているケースが多い。具体的には、トレーディング部門やウェルスマネジメント部門の中にIT部隊を設置し、そこにDXの起案・予算執行・開発の権限を委譲することで、ユーザーと直接コミュニケーションを取りながらDXを加速させている。さらに、ビジネス部門のIT部隊では、専門性のある外部人材の採用や外部の専門家の活用が進みやすいことも、DXをスピード感を持って進められる主要因となっている。

全てをシステム部門、システム子会社が自分たちでやるというのは、もはや悪しき伝統になりつつある。足りない部分は外部で補う、ビジネス部門に任せるといった柔軟性が必要なのである。

滝で遊ぶ風景。watefall開発に掛けているいる。
古い体制が居心地の良さになっていないだろうか。
次ページ > 経営層に必須の「フラット」なリーダーシップとは

文=武藤惣一郎(アクセンチュア)

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事