──大きい流行や価値観の発生は、いまやメディアが起点ではなく個人のものとなり始めました。メーカーの世界観の押し付けが通用しなくなるなかで、個人から生まれる価値観は細分化されています。メーカーはどうやって個人を満足させていくのでしょうか。
そこはシンプルに、デジタル一択です。デジタルは多様化に向いているんですよ。個人にパーソナライズされるから。いまはおっしゃる通りで、かつて大衆に向けてのカローラが売れたりしましたが、ニーズは細分化する。そのとき必要なことは多様な用途に対応できるラインアップを揃えることですね。
家族で移動する、仕事に使う、長距離を楽に移動する、など。自動車の使われ方も限定的なものになっていくかもしれません。マスに向けて平均的にこなすオールラウンダーよりも、目的に特化した、ひとりひとりにパーソナライズできるクルマが求められていくでしょう。
──ロールスロイスやベントレー、フェラリやマクラーレンなどの高級車ブランドでは、外装のカラーはもちろん、シートや内装の材質などはオーナーのオーダーメイドで自由に選べます。デザインとしてのパーソナライズはもともとありましたが、これから先の可能性は?
狭い話で言えば、僕が気になってているのはシートです。用途に応じたシートアレンジや、中で眠ったりもしたい、食事もしたいなどのニーズがあればシートのあり方は変わってきますよね。用途ごとにカスタマイズされたデザインがあってもいいのかもしれません。
レクサスの新型LSでは、インテリアに西陣織を採用。月明かりに照らされる海の水面「月の道」をモチーフに、京都のテキスタイルメゾンであるHOSOOが、西陣織の銀糸の輝きで表現。品格と日本の美意識を表現する。
今後注目のクルマは、いままで見過ごされてきたところに
──日本でも発売が開始したホンダの電気自動車、ホンダeはフル充電での航続距離が約250km。街乗りをメインにある意味割り切った性格のクルマです。このように使用されるシーンが細分化されると、かつて性能面で制約だったことが制約でなくなります。入山先生が注目しているクルマはありますか?
実は、軽トラックに注目しています。スズキのジムニーが爆発的な人気となり納車待ちに1年以上という大ヒットとなりましたが、これはアウトドアブームの影響が強いものでした。
冒頭でお話したように地方拠点生活を始める人が増えたとき、そして今後個人にパーソナライズされたクルマが求められるようになったとき、特に金銭的な余裕があまりない若い方にとって、利便性が高く維持費の安い軽トラは非常に魅力的な選択肢です。自分好みの、イケてるカスタマイズもしやすいですし。
アメリカで都市近郊に暮らす人たちがピックアップをいまだに使っているように、日本においては軽トラに大きな可能性があるのではないかと思っています。軽トラだけでなく、いままで用途が限定されていたけれどカスタマイズの幅が広い車種があれば、そういったクルマの見過ごされてきた価値に再び光が当たるかもしれません。
いりやま・あきえ◎三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号(Ph.D.)を取得。 同年、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授に就任。2013年から現職。