自動車は移動する手段から、用途のための空間へ

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──さらに遠い未来のレベル4、レベル5となるといよいよ運転しなくてもいいという時代になる。

そうなるとクルマの中で何をしていてもいい。クルマという空間が究極のプライベート空間になるわけです。そして、その方向性は現在でも少しだけ見ることができます。

コインパーキングの使い方のある調査によると、その上位に「昼寝」が入っていて、続くのが「仕事」なんですね。都市部ではクルマは簡単に停めておけないけれど、コインパーキングなら安心して停められる。自分の乗るクルマのなかで「昼寝」というプライベートな空間でないとできないことをしたいというニーズはすでにあるわけです。仕事も同様ですよね。

私もそうですが、一番集中して仕事ができるのがクルマの中だったりする。つまり、クルマはいままでは移動手段でしたが、これからは空間を提供するものになるわけです。不動産に対しての動産という意味合いで、クルマの価値が非常に高くなる可能性は大きいわけです。

──その一方で、若年層を中心にクルマの個人所有が減っている傾向もあります。自動車メーカーはどう対応する必要があるでしょうか。

2つの方向性があります。クルマの売り切りモデルは終わりつつあるのかもしれませんね。複数拠点生活になれば乗る人は増えるかもしれませんが、必要なことは新しい価値を出していくことです。つまり、UXで価値を訴求する必要がある。

──もうひとつの方向性とは?

コモディティ化が進み価値が出しにくくなるところで、その真逆の方向があると思っています。これは私の仮説ですが、人間には運転したい欲求がある。人間は自動車の誕生までの4000年にわたって、馬に乗って移動していたわけです。私も熊本の牧場で、自然の中で馬に乗りましたが、得難い爽快感がありました。

つまり、自動運転という技術が発達する一方で、自分のちからで移動する喜びという価値があらためて見直されるかもしれない。その点ではポルシェやフェラーリといった、エンジンの音が気持ちよく爽快な、老舗スポーツカーブランドには価値が残るのではとみています。


2020年11月にポルシェジャパンが発表した「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」のイメージ。ポルシェがグローバルに展開する、スポーツカーのパフォーマンスとポルシェブランドを体験できる施設。全長2.1kmのロードコースを備える。千葉県木更津市に、2021年夏にオープン予定。
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この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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