自動車は移動する手段から、用途のための空間へ

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「これからの自動車は、UXで価値を訴求する必要があります」と語るのは、早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄。生活様式の多様化、継続して求められる環境対応のなかでの、自動車の価値を考える。


──新型コロナウイルス感染症の拡大を経て、他者とのソーシャルディスタンスを確保できるプライベート空間としてのクルマに注目が集まりました。新しい生活様式のなかでのクルマには、新しい付加価値が生まれるのでしょうか。

まず、よくお話していることなのですが、一般論として新型コロナウイルス感染症により、大きな方向性が変化するわけではないと考えています。特にDXや働き方の変化という面での私たちの生活の変化は、10年先、20年先に来ると思っていたことが早く形になっただけです。

顕著な事例として、オンラインミーティングの一般化や、リモートワークの普及などが挙げられますが、それらはコロナの前から起きており、今年一気に加速したということです。

──地方へ移住する人も増えていますね。

リモートである程度の仕事ができることがわかり、複数拠点での生活も進んでいますね。東京で働いていた人が軽井沢へ移住している例は多くあります。すでに軽井沢は地価が上がってしまったので、今後は第二、第三の軽井沢のような地域が出てくるでしょう。不動産の価値、あり方というものが変わっていくわけです。

都市の概念も場所に依存しないものへと変わっていきます。東京や大阪などの大都市がある一方で、先に挙げた軽井沢や第二、第三の軽井沢のような地域をあわせて一つの都市として捉える考え方が生まれてきました。もちろん、ネットワークを通じた接続を前提としますが。

こうして、いままでの大都市の価値が変わり、そしてワクチンの普及でコロナが沈静化すれば人はもっと移動するようになる。不動産としての土地の価値が変わり、動産としての自動車の価値が強調されるわけです。

──移動手段としての自動車の価値が高まるということでしょうか。

そうです。さらに中長期的に考えると自動運転の技術と法整備が進めば、またクルマのあり方がさらに変わります。自動運転のレベル3が実用化されると、相当運転が楽になった状態で移動することで、ドライバーは一部運転から開放され、そこにサービスが入ってくる余地がある。
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この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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