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2021.03.27

地方で創業40年、未来に続く「オトワレストラン」の軌跡

レストランの前での家族写真。音羽氏は仏の一流ホテル・レストラン団体、ルレ・エ・シャトーで、その年の最も優秀なシェフに贈られる「シェフ・トロフィー2019」も受賞。Photo by Haruko Amagata


地方ならではの職住の近接も「世代を超えて受け継ぐ」上でのメリットだ。親子3人がコレボレーションしたイベントの日、孫たちも客席に挨拶に回り、地元の常連客が声をかける。そんな関係性が自然と生まれていた。自分の生活も大切にできるからこそ、無理なく仕事を続けられ、着実に次世代につながれていくのだろう。


地元産のアスパラガスを使った一皿。穂先はシンプルに塩茹でにし、トリュフ風味のうずらの卵を添えて。根元や皮はピュレにして、食材を無駄なく使い切る

まさに地域と共に生きるレストランが今目指すのは、食・農・観光の連携だ。音羽氏は、レストランから北西に車で20分、日本遺産にも選ばれた宇都宮の大谷石の石切場に、新しくオーベルジュ、ラボ、セントラルキッチンを集約させた施設を作り、日帰り客が主だった宇都宮を、宿泊も含めて楽しめる地域に変えていこうと考えている。

「元々、私一代で成し遂げられるなんて思ってないんです。子どもか孫の世代に実現すればいい」

だって、そんな簡単なものじゃないから。と、いつもの言葉を続けた音羽氏が、目の前のコーヒーに角砂糖を入れようとすると、横にいた創氏が押しとどめた。「夢を語るなら、ちゃんと健康管理してくださいね」。聞くと、数年前から血糖値が高めなのだという。「出張中も子どもたちからチェックが入るんですよ。お酒を飲みすぎてないか、ってね」と、音羽氏はまた末っ子の顔で苦笑する。

若き日に抱いた夢はもう音羽氏ひとりのものではない。家族や地域をどんどん巻き込みながら、忙しくゆっくりと「地域に根ざした食文化」は着実に実現に向かっている。

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文=仲山今日子

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