ビジネス

2021.03.16

家業とスタートアップを融合。後継流「出島」戦略

イラストレーション=岡村亮太

事業承継した中小のモノづくり企業が新たなビジネスに挑むケースが増えている。最近では、これまでにない資本政策で家業を発展させる若手後継者も出てきた。


ここ数年、事業承継をした後継ぎたちの活躍ぶりには目を見張るものがある。私は若手後継者を支援している一般社団法人ベンチャー型事業承継の理事を務めているのだが、彼らを注目し始めたのには訳がある。「Makuake」を使って新製品をヒットさせたモノづくり企業の経営者をみてみると、その多くが、2代目、3代目は当たり前で、4代目や8代目などもいるという具合に事業承継をした後継ぎたちだったのだ。

兵庫で創業100年を迎える金楠水産の4代目が明石たこの家庭用お取り寄せ新商品事業に乗り出したり、三重で金属加工業を営む中村製作所の4代目が切削技術を生かしたキッチン用品の自社ブランドを立ち上げたりと、その例には枚挙にいとまがない。

ただ、多くの会社が資本政策の面では、銀行融資が中心で、VCによる投資がエコシステムの一部として組み込まれているスタートアップ業界の仕組みとは縁の遠い場所にあるものだった。

しがらみを超越したエクイティ


そのなかで、新しいやり方で家業の強みを生かしつつ、しがらみを超越してエクイティの論理を取り込むケースが現れ始めた。そのひとつがKOTOBUKI Medicalという手術トレーニングキットを製造販売する埼玉県のスタートアップだ。この会社の代表の高山成一郎氏は、寿技研という創業42年の金型づくりや機械づくりなどを中心にする町工場の2代目後継ぎである。

若くして家業に入った高山氏はリーマンショックをきっかけに、下請け中心の事業構造にリスクを感じ、自社商品事業の構築に動きだした。さまざまなきっかけのなかで、医師が日々の練習で用いるための安価な手術トレーニングキットの需要に気づいて事業を立ち上げたが、そこで高山氏は、外部人材の採用や先行投資の戦略上、家業のやり方とは違う“出島”をつくる必要性を感じたという。

そして、寿技研と高山氏本人も出資し、グループ会社としてKOTOBUKI Medicalを設立。その新たな法人体にVCからの株式出資やネットで募った個人からの株式出資というかたちで、外部資本を受け入れるという資本政策を展開したのだ。
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文=中山亮太郎 イラストレーション=岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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