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総合エンターテインメント企業・エイベックスと世界的ライブエンターテインメント企業・AEG Presentsが手を組む。コロナ禍のなかで勝算はあるのか。エイベックス代表取締役社長CEO・黒岩克巳と、AEG Presents会長兼CEO・ジェイ・マルシアーノの対話からその答えを探る。

1990年代にミリオンヒットを量産、CD中心の音楽ビジネスで一世を風靡したエイベックス。CD人気が衰退した後も、現・代表取締役社長CEO・黒岩克巳によるライブ戦略でサバイブし、本年創業33周年を迎える。

一方、世界最大手の興行施設デベロッパーであり、世界中にコンサート/スポーツ会場を保有するライブエンターテインメントのグローバルカンパニーでもあるAEG Presents。テイラー・スウィフトやローリング・ストーンズのツアーを手がけ、会場設営からステージ演出、チケッティングまでを担う総合的なライブ構築がノウハウだ。

ライブを軸にビジネスを展開する2社が、奇しくもこのコロナ禍のさなかにパートナーシップを組むこととなった。提携の理由と、彼らの見ているエンターテインメントビジネスの未来について、2人のキーマンが語り合った。


エイベックス代表取締役社長CEO 黒岩克巳

それでもライブビジネスは滅びない


黒岩克巳(以下、黒岩):ストリーミング革命により、音楽やアーティストを好きになる間口は急速に広がりました。そこまではオンラインの世界ですが、次に見たくなるのがオフライン・イベントであるライブです。実際に集客も右肩上がりに増えていたのですが、現在はコロナ禍によりライブイベントがペンディングされています。それでも私は、ライブは必要なものだと考えています。来たるべき再開時期に向けて、その先の音楽シーンの変化も見極めたうえで準備する必要があると思っています。

ジェイ・マルシアーノ(以下、マルシアーノ):まったく同感ですね。ストリーミング革命は、国境を越えて世界のアーティストの音楽を楽しめる環境を人々に与えました。しかし同時に世界中がライバルになることもあり、どのように固定ファンを獲得していくのかをあらためて模索していくことが必要になってきているのが現状です。

その点ライブは、アーティストに対するファンにstickiness(粘着性)を与えることができる。この先、ライブビジネス自体は変化するかもしれませんが、ライブエンターテインメント自体がなくなっていくとは思いませんね。

そして音楽市場で世界第2位の規模を誇る日本は、音楽にかかわる誰もが無視できない大きな存在です。世界中のアーティストにとって魅力的な市場ですが、その一方で、米国チャートNo.1を記録した楽曲は、はるか58年前の「スキヤキ(上を向いて歩こう)/坂本九」以来、輩出していないという現実があります。

黒岩:残念ながらその通りで、世界各国の音楽フェスでも、BTS、BLACKPINKなど、ヘッドライナーを務めることのできるアジアのアーティストは存在しても、日本にはそのレベルに達しているアーティストはいません。日本は市場が大きいので、ドメスティックな活動だけでも成立してしまいます。そのために早い時期から海外市場を見据えていたK-POP勢のように、海外進出に積極的でなかったのも事実です。

しかしこれからの時代は、日本で生まれたアーティストも海外進出を前提として活動することになるでしょう。そのときに求められるのがシームレスに海外に進出できるインフラです。そのため、世界ツアーのスムーズな構築が可能な、AEGのアセットが必要と感じたのです。


AEG Presents会長兼 CEO ジェイ・マルシアーノ


ジャパン・コンテンツの可能性


マルシアーノ:黒岩さんに初めてお目にかかったのは、4年前のコーチェラ・フェスティバル(カリフォルニア州インディオで行われている巨大野外音楽イベント)のバックステージでしたね。私はそのときにすでに、日本のアーティストの魅力は世界に通用すると感じていました。

黒岩:もちろん覚えています。「日本のアーティストが5年後、ヘッドライナーを務めているかもしれない」とおっしゃっていただいて、非常に感激しました。

マルシアーノ:もともとエイベックスとはセリーヌ・ディオンやエド・シーランのツアーでご一緒していたので、有機的なつながりを構築していたと認識しています。そのなかで感じたのは、エイベックスはとてもアーティストに寄り添った企業だということです。そして、たくさんの良質なコンテンツをおもちです。音楽はもちろん、アニメも含めてエンターテインメント・コンテンツを大量に保有している。それらを世界中の私たちの保有会場で展開することは、私たちにとっても非常に魅力的に感じたのです。

ストリーミング革命が起こり、日本のアーティストが海外に進出しやすい状況は、日に日に高まっています。エイベックスは世界進出のための道筋が必要であり、私たちは魅力的なコンテンツを常に探しています。だから握手をしたのです。


エンターテインメントビジネスの未来


黒岩:エイベックスはコンテンツおよびIP(intellectual property、知的財産)をど真ん中に据えた企業です。そして最近では、グローバルにパフォーマンスしたいという国内アーティストが増えています。言語の壁は依然としてありますが、優れたメロディやビートは国境を越えることができると信じています。

マルシアーノ:最近は「ライブミュージックは続くのか?」と質問されることが多いのですが、人類が洞窟から出てきて丸太を叩いたときから、観客はいたのです。1、2年で消え去るとはとても思えません。

黒岩:同感です。音楽だけではなくスポーツなども含め、生で見るライブ/ショーにはすべて、感動価値があると思います。その特別な感動体験を捨てるなどということは、およそ考えられない。もちろんいままでの形式で開催は難しいかもしれません。しかしかたちは変わるでしょうが、新たなライブ・ソリューションは全世界にとって必要ですし、私たちならそれをできるはずです。再開後の未来では、いままでの飢餓感も作用して、爆発的にライブの価値は高まっていくでしょう。プレミアムな存在としてのライブ、その流れがやがてやってくるのです。

マルシアーノ:そのときには、私たちの会場/ステージ設営を含めたショーの制作や演出、スポンサーとのアライアンス、チケッティングのノウハウがエイベックスのアーティストのために役に立つでしょう。ポスト・コロナの時代には大きな機会が待ち構えている、そう思いませんか?

黒岩:強く思いますね。そしてそれは日米にとどまることなく、シームレスに世界中に広がるムーブメントとなるはずです。さらにシンガポールで約50万人を熱狂させることができた日本発の花火ショー「STAR ISLAND」も、世界中に広めていきたい。届けるコンテンツはたくさんあります。

ポスト・コロナのライブビジネスの未来、その活性化を見極めたことで、AEGとの連携のあり方が見えたのです。この2社のパートナーシップは、明るい未来を描くための力強い一歩になるに違いありません。



「生で見るショーにはすべて、感動価値がある」 Katsumi Kuroiwa



「ライブはファンにstickiness(粘着性)を与えることができる」Jay Marciano


AEGX
https://aegx.jp/

ジェイ・マルシアーノ Jay Marciano◎世界有数のライブエンターテインメント企業・AEG Presents会長兼CEO。これまでに、MCAコンサーツ社長、ハウス・オブ・ブルース社長、マジソン・スクエア・ガーデン・エンターテインメント社長を含む、コンサート業界の上級職を歴任。AEGヨーロッパの社長兼CEOを経て現職。

黒岩克巳 くろいわ・かつみ◎1972年生まれ。エイベックス代表取締役社長CEO。2001年5月にアクシヴ(現エイベックス・マネジメント)入社。エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ取締役などを歴任し、18年6月にエイベックス代表取締役社長COOに就任。20年6月より現職。

 

text by Ryoichi Shimizu | photographs by Shuji Goto | edit by Akio Takashiro

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