・石油需要がピークに達したとの見方もありますが、当面は、現状維持の状態が続く可能性が高いと考えられます。
・鍵となるのは、最も低コストで二酸化炭素排出量の少ない石油とガスを生産するために、どんな投資が必要なのかを見極めることです。
・ここでは、業界が今後検討する必要のある5つの項目を取り上げます。
石油・ガスへの投資は、エネルギー転換の取り組みと両立できるのでしょうか?
ニュースを読む限り、否定せざるを得ないようです。
パリ協定のポートフォリオに沿った取り組みが必要であるとして、機関投資家や銀行が化石燃料投資から撤退を発表するニュースを頻繁に耳にします。同様に、再生可能エネルギーへの投資を拡大し、事業活動(スコープ1、2の排出量)や製品の使用(スコープ3)についても実質排出ゼロ(ネットゼロエミッション)目標を設定するなど、石油・ガス企業の対応や戦略変更にも注目が集まっています。
緊急な対応が必要であるという事実は、誇張ではありません。既存のインフラ(電力、産業、その他)だけで温度上昇は1.65℃までと目標設定されているなか、現在計画されている2030年までの化石燃料生産量(石炭を含む)は、1.5℃目標に相当する最大生産量の2倍です。
では、石油・ガスから投資を撤退することが唯一の選択肢であり、石油・ガスの資産はすべて行き詰る運命にあるのでしょうか。また、こうした撤退は、地球規模の排出量削減にプラスの効果をもたらすのでしょうか? あるいは、石油・ガスへの投資がエネルギー転換を支援することになるのでしょうか?
ここで鍵となる要素は3つ。石油・ガス供給、石油・ガス需要、そしてエネルギー転換そのものです。
石油・ガス供給:転換が難しいワケ
世界の石油・ガスの生産量と埋蔵量のほとんどは、機関投資家ではなく、政府(多くの場合は新興国)が運営する国営石油会社が管理しています。これらの国において、国営石油会社は政府の予算源であり、行政サービスに必要な資本であると同時に外貨準備高の収益源であるため、国営石油会社への依存度が非常に高いのが実状です。
各国が経済の多様化(エネルギー転換によって可能になるケースもある)を図るか、外からの圧力によって、諸外国に追随して実質排出ゼロ目標を宣言するまでは、貴重な石油・ガス埋蔵量の反収益化を決断することはないでしょう。
図1:埋蔵量、生産量、投資額の割合(2018年) イメージ:IEA
石油・ガス需要:需要は残れど供給は減少?
石油需要がピークに達したとの見方もありますが、当面は現状維持の状態が続く可能性が高いでしょう。
2019年、国際エネルギー機関(IEA)では、パリ気候協定に沿ったシナリオでも、2040年の原油需要は67mb/d程度 (新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた2020年の91mb/dを基準として算出)、ガス需要は2019年とほぼ同程度になると試算しています。
しかし、現在の石油・ガスへの投資規模は、こうした需要予測に沿っているとは言えません。IEAは、新たな投資がなければ2040年までに石油の供給量は16mb/dまで減少すると分析しています。既存の油田への投資を加えると、2040年までの生産量は39mb/dになると見込まれます。
図2:持続可能な開発シナリオにおける石油の需要と供給 イメージ:IEA