3月10日に再選したIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長は「7月23日に開会式が行われることを疑う理由はない」と、改めて開催に向けて強い意欲を示している。
これまでも「東京オリパラ」ともに中止や延期による経済損失について話題になってきたが、海外の観客が入らないことによる日本経済や株式市場への影響については「限定的だ」という見方がある。第一生命経済研究所の首席エコノミストの永濱利廣氏に聞いた。
経済効果と感染リスクを考慮すれば「妥当」
まず、永濱氏は東京オリンピックが中止になった場合、日本人や外国人旅行客の特需が失われ、完全な形で開催された場合に比べてGDPベースで1.7兆円、経済波及効果ベースで3.2兆円程度が失われるという。また、組織委員会が見込むチケット収入は約900億円で、このうち五輪チケットに占める海外分は1、2割程度とされる。
ただ仮に無観客であっても東京五輪が開催されたら、観戦のためテレビやパソコン、スマホ、レコーダーなど耐久消費財の買い替えなどで、トータルの需要創出額は4000億円程度と期待される。
永濱氏は「緊急事態宣言下には、1カ月間で1.5兆円の経済損失が出ています。海外の一般観客を入れることで感染拡大した場合、再度緊急事態宣言が発令されることになれば、さらに損失が広がるでしょう。経済効果と感染リスクのバランスを考えると、海外の一般観客を入れない方向性は正しいと言えるでしょう」と語る。
実は、オリンピックを巡っては「開催直前の方がGDPの押し上げ額が高く、2019年までに8割近くの経済効果は出ていると言える」と指摘する。オリンピックが商業化した1984年のロサンゼルス大会以降、夏季オリンピックを開催した国の平均的な経済成長率の上振れを現在の日本の経済規模に当てはめると、GDPの押し上げ額は開催直前3年間の累計で+9.2兆円、開催年だけでも+1.7兆円となる。
開催直前3年間の方がGDPを押し上げる背景としては、主にインフラ整備への投資が進んできたためだ。過去の経験則にもとづけば、2019年までに13.8兆円程度の経済効果が出ており、株価もすでにそれを織り込み済みである可能性が高いという。
無観客でも開催するメリットはほかにもある。永濱氏は、「オリンピック誘致が決まったからこそ、ビザの要件が緩和され、訪日外国人向けにもキャッシュレス化の対応が進んだ。たとえ無観客であってもオリンピックが成功すれば、世界にその様子が放送されることで、コロナ収束後に日本を訪れたいという気持ちを喚起させる可能性があり、インバウンドの増え方にも影響を及ぼすと考えられる」と語る。
訪日外国人は、2019年には3188万2100人で過去最高記録を叩き出したが、昨年はコロナ禍の影響で、前年比−87.1%の411万人で1998年以来最低だった。