濃い色の木材を張った壁に革の椅子、棚に輝くリキュールボトル──。そして運が良ければ、カウンターの向こう側にマスターバーテンダーの杉本壽(ひさし)がいるかもしれない。
(編集注:バー「オーク」は現在休業中のため、杉本バーテンダーは2月18日から当面の間、バー&カフェ「カメリア」で毎週月・木曜日の17:00~20:00(19:00 L.O.)に勤務)
80歳の杉本は、同ホテルで60年ほど前からカクテルを作っている。地元の象徴的存在である杉本はこのほど、そのカクテル作りの技術と顧客への献身をたたえられ、フォーブス・トラベルガイドが選定した2021年の年間最優秀ホテル従業員賞「ホテル・エンプロイー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。
杉本は長いキャリアの中で、バーの多くの定番カクテルを生み出してきた。その一つが、最も人気の「東京駅」だ。
(c) THE TOKYO STATION HOTEL
杉本は1989年、東京駅開業75周年の記念カクテルを作ってほしいとJR東日本から依頼を受けて同カクテルを考案。東京駅の建物自体がカクテルのインスピレーションとなった。
「カクテルの色は、駅舎の赤れんが色をイメージ。タンカレー(Tanqueray)の『T』とスーズ(Suze)の『S』で『Tokyo Station(東京駅)』の頭文字になる。ライムの緑は、駅舎前の松の木をイメージしている」と杉本。
「東京駅」が最も人気のカクテルである理由は、甘酸っぱいグレナデンシロップと苦味のあるハーブリキュール、爽やかなジンのバランスにあるのかもしれない。あるいはもしかしたら、思い出に浸るためかもしれない。
(c) THE TOKYO STATION HOTEL
「約5年間の東京駅丸の内駅舎の保存・復元工事を経て2012年に東京ステーションホテルが再開してからは、旧ホテルからの多くのなじみのお客様より昔の日々や面影を懐かしんでこのカクテルの注文をいただいている」と杉本。
「また日本各地や世界中からお越しいただくビジターの方々には、東京に訪れた記念として東京のシンボルである『東京駅』の名前のカクテルをオーダーいただくことも多い。若い世代の方々にとっても甘過ぎず苦過ぎず、飲みやすさで人気のカクテルとなっている」