ビジネス

2021.03.16

ヒントは「江戸前のすし屋」にあり。コロナ禍でも成功する企業の秘密

Ippei Naoi /Getty Images


そして、常に疑問を持つということも大切な要素です。面倒くさがり屋は、「良いソフトウェア屋になる」と言われることがあります。それは、ちょっとした作業や繰り返しの業務をやるのが面倒なので、それを自動化したり、コンピュータ制御にしたりといったことにモチベーションを傾けるからです。

しかし、そもそもやっている仕事に対して疑問を抱くことがないと、何が問題で、どういった価値を創造すべきなのかというアジェンダの設定もできません。したがって、「先回り」するための「視力」も身につきません。

江戸前のすし屋に学ぶ仕事の基本


仕事とは、「事に仕えること」という解釈を聞いたことがあります。「人」ではなく「事」に仕えることが仕事であるという言説です。これに従えば、「事」といかに向き合うかで仕事の価値が決まります。

江戸前のすし屋に行くと、あらかじめ酢漬けや醤油漬けにしたり、茹でたり煮たりと、旬の魚をより美味しくするための工夫が、先回りして施されています。すし屋は、すしという「事」に向き合い、お客さんから注文を受けるとすぐに最高の状態で出せるようにしています。

また、あらかじめ準備してあったものをそのまま出すばかりでなく、お客さんの顔色や雰囲気などを察して、微妙に調製しています。企業では、より多様で歪な「事」を扱う場合があるかもしれませんが、江戸前のすし屋の先回りには、「仕事」の基本が詰まっていて、とても参考になります。

かつて、企業価値の世界ランキングにおいて、多くの日本企業は上位を占めていましたが、ここ30年ですっかり姿を消しました。また、米国の企業においては、30年前には存在していなかった企業が企業価値のトップ集団を形成するに至っています。

これはなぜでしょうか。要因は多岐に及ぶと思われますが、「先回り」不足も大きな要因なのではないかと思います。多くの日本企業は、顧客への価値提供を大切にして、顧客ニーズに応えることを最重要戦略に掲げてきたのにもかかわらず、顧客から要望されないプロダクトやサービスを出してゆき、結果的に企業としても顧客から選択されなくなったということがあると考えられます。

私たち日本の企業人は、もう一度「事」と向き合い、リスクとコストを負って、「先回り」することを良しとする企業文化を醸成していく必要があるのではないかと思います。

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文=茶谷公之

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