露呈する日本の研究体制への問題点。3つの大切な視点とは


研究、それも基礎研究にはヒト、カネ、モノのすべてを要する。これには3つの視点が大切だと思う。

まず、日本の研究体制はこれらすべてで主要国に劣後している現実を直視し、早急に対応を打つべきことである。具体的には、公的な予算措置や若手研究者が研究に専念できる場を構築していくこと、民間は、研究開発はいまはやりのSDGsに直結するもの、との意識で研究者をサポートすること、だ。有り余るほどのSDGsセミナー開催資金の一部でも、研究分野に拠出してほしい。

次に、大学は基礎研究、民間は応用研究といった思い込みを捨てることだ。いまや、基礎から応用への時間が短縮され、応用から基礎が導かれることも少なくない。利用者ニーズが基礎研究を刺激することもある。例えば、宅配業のビジネスモデルが、先端的なAIやロボットなどの技術モデル革新に直結している。オープンな産学連携は必須メニューである。

第三に研究費の手当てとともに、研究者への処遇を格段に向上させることだ。一流大学の博士号をもつ非常勤講師でも、年収が300万円以下、という例は少なくない。食べていくためのアルバイトの負担が大きく、研究どころではない。教授に上り詰めても、年収は大方、1000万円程度に過ぎない。欧米の同職の半分以下だ。

面白いデータがある。研究者の内外交流人数である。いちばん盛んな日米間の研究者移動数は相互に1万4000人ずつ、欧州各国との往来数もほぼ均衡しているが、日中間では日本の大きな移動超過になっている。過去10年間で日本の約6400人に対して、中国は約4400人と、日本からの流出数がばかにならない。

理由は、中国側が提供する良好な研究環境と処遇にある。中国は、内外の優秀な研究者を、恵まれた研究施設と破格の処遇でかき集めている。千人計画である。貧弱な待遇に苦しむ日本の研究者が引かれるのは無理もない。

まかり間違っても、立派な研究者ならお金も設備も不要、才能と努力、それに不屈の精神力を備えていれば、などと誤解してはならない。日本はこの誤解で第二次大戦で無残に敗れ、情報化社会の後進国に甘んじているのである。


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。日本証券業協会特別顧問、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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