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2021.03.10

淡路島に本社移転、果断で知られるパソナ南部靖之代表の「原点」

パソナグループ代表取締役グループ代表 南部靖之


ただ、誰もやらないことに挑戦するのはこれが初めてではない。パソナの歴史は、アウトプレースメント(再就職支援)、企業内保育施設の運営代行、福利厚生のアウトソーシングなど、“日本初”の歴史だった。なぜ人が踏み入れない道を好んで歩むのか。原点は、子ども時代だ。

南部は3人兄弟の末っ子。算数が得意な兄と違って絵が好きだったが、母は「絵を描くのも同じ価値」と言って、絵を描くたびに10円で買ってくれた。人と違うことが気にならなくなったのは母のおかげだ。

父は暴れん坊だった南部少年をお寺に修行に行かせた。高校大学時代は、ほぼ寺で暮らした。

「教科書は、禅文化を世界に広めた鈴木大拙。僕がいま経営で大事にしている、とらわれない心、こだわらない心、惑わされない心、それから“心の黒字”を大切にする考え方も、みんなお寺で学びました」

仏教の影響で、お金をもうけることより、社会課題を解決することに興味をもった。大学時代は、結婚や出産で退職した女性に就業機会をつくる活動をボランティアで立ち上げようと考えていた。

「ボランティアは父に反対されました。『いいことだからお金をください』では、もらった範囲でしか活動ができない。本気でしたいなら会社を興して、きちんと事業にしなさいと」

起業は1976年。人材派遣で急成長した後、日本初の事業を次々に立ち上げたのは前述の通りだ。

「人材派遣は同業者が1万社できて、うちより売り上げの大きな会社が出てきた。僕が考えたアイデアを、給料を払わなくていい他社の人がやってくれるのだから、これほどありがたいことはない(笑)。一方、社会の問題点は毎年のように変わります。やりたいことがいっぱいある」

今回の地方創生も、東京本社から人を移して終わりにするつもりはない。目指すは、淡路島をインターナショナルアイランドにすることだ。

「国連みたいな国際機関を持ってきます。あっ、これは会社の計画じゃなくて、僕の夢の話ね。でも、きっと実現できますよ」

最後に広げた大風呂敷は、話半分に聞いておいたほうがいいのかもしれない。しかし、南部節をたっぷり聞いた後ではこう思った。南部ちゃんなら驚かない──。


なんぶ・やすゆき◎1952年、兵庫県神戸市出身。関西大学工学部卒業。76年2月、大学卒業の1カ月前に人材派遣のテンポラリーセンターを創業。93年6月にパソナに社名変更。2007年12月、持株会社パソナグループを設立し現職に至る。20年2月より淡路島を拠点に活動。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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