EC先進国である米国でも、その市場規模は引き続き拡大していくことが予想されているが、D2Cブランドに限定したビジネス・インサイダー社のレポートによると、伸び続けてきたマーケットの天井が見えつつあり、まさに生き残りの明暗が分かれるフェーズとなってきた。
2020年は日本でもD2C元年と呼ばれるほど新規ブランドが立ち上がったが、CAC(=顧客獲得コスト)が上がったこともあり、D2Cが台頭した初期と比較してスケールする難易度が高まったように感じる。
日本のD2Cブランドにとっても2021年は勝負の年になると予想される今、D2C先進国である米国ブランドから、日本でD2Cブランドを成功させるためのヒントを紹介したい。
●プロダクトではなく世界観を構築する(AWAY)
●圧倒的なブランドミッションへのコミット(PANGAIA)
●カスタマーサービスの強化(Andie)
プロダクトではなく世界観を構築する
体験を優先したブランド構築が重要である点については以前の記事でも紹介しており、日本のD2Cブランドでも基本要素となってきたように思うが、改めてブランドのストーリーやブランドが発信する世界観の重要性を強調したい。
スーツケースD2CブランドのAWAYがプロダクトを販売する前に、旅を通じたライフスタイルや世界観を伝える雑誌「HERE」を販売したことは既に知っている方も多いのではないだろうか。
AWAYは2015年の創業以来、ブランドにとって世界観が重要であることを自覚し、発信を続け、その美しくデザイン性の高いクリエイティブに共感し憧れるファンを増やし強力なユーザーコミュニティを創ってきた。
$1.45Bの企業価値があり、コロナ前はスーツケースの新しい型や旅行用の新商品を続々と出してたAWAYだが、コロナ禍では売上が一時9割減少し、従業員の半数を一時解雇する危機的状況に陥った。
しかし、これまで通りの旅が出来ない状況でAWAYがビジネスを続けられている要因の一つは、間違いなく強力なユーザーコミュニティのお陰であろう。
飛行機を使った旅が突然できなくなり、更には再開時期も未知数となったとき、AWAYが実施したことは、ブランドの世界観を支持してくれているコミュニティの声を聞くことであった。
ユーザーへの旅に関するフォーカスグループインタビューやプロダクトテストを通じ、昨年のホリデーシーズンには飛行機でなく、車移動の旅に適した軽くて撥水性のあるバッグ、家での収納にも役立つシューズ入れやガジェットケースなど15点以上の新商品をローンチし、徐々にビジネスを回復させてきている。
コロナ以前(左)と最近のAWAYのInstagram。変わらぬ世界観を発信している
予測不可な危機的状況となっても、発売するプロダクトが変わっても、AWAYが発信する世界観は変わらない。
HEREというストーリーを発信する場所を持ち、他社と差別化できるブレない世界観を発信し続けることで、ブランドとユーザーの繋がりを継続させていくことができる。
ユーザーからのインプットを基に生まれた新商品のローンチ後も、ブランドの世界観が変わらないということは、感度の高いユーザーそのものがブランドの世界観の一部を担っているとも言える。