可能性開花の究極の技法


では、どうすれば、必要な職業人格を身につけていくことができるのか。

その一つの技法が、優れた師匠を見つけ、その師匠から人格を学ぶことである。それゆえ、師匠から懸命に学んでいる弟子は、しばしば、「彼は、雰囲気が師匠に似てきた」と評されることがある。

こうした技法を具体的に語ったのが、拙著『人は、誰もが「多重人格」』であるが、実は、この著書では深く語っていない、極めて大切なことがある。

それは、自分の中に幾つもの人格を育て、それらを場面に応じて使い分ける努力を続けていると、自然に、それら複数の人格を俯瞰的に見つめ、必要なとき、必要な人格を前に出す統合的・超越的な人格、すなわち「賢明なもう一人の自分」と呼ぶべき人格が生まれてくるのである。

そして、この統合的・超越的な人格が心の中に生まれてくると、三つの意味で、我々の才能と能力は、さらに大きく開花していく。

第一は、この「賢明なもう一人の自分」が現れてくると、自分の心の中の「エゴ」の動きを静かに見つめることができるようになるため、あまりエゴや感情に流されることがなくなり、自然に、対人的能力が高まり、人間関係が好転していく。

第二に、その結果、エゴや感情に振り回されない静寂な心の状態が生まれてくるため、難しい問題に処するときの「直観力」が鋭くなっていく。

そして、第三に、その直観力が鋭くなると、人生の様々な岐路において、選択を過たず、「運気」を引き寄せる力が高まっていく。

すなわち、自分の中に様々な人格を育てることは、こうした高度な能力を覚醒させることを通じて、自分の中に眠る「想像を超えた可能性」を開花させていく、究極の技法に他ならない。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global Agenda Council元メンバー。全国6300名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『運気を磨く』『直観を磨く』『知性を磨く』など90冊余。

文=田坂広志

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

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