ビジネス

2021.03.10

「なぜ漁師が稼げないのか」に本気で向き合う。異色のクリエイターが石巻から発信するデザイン

漁師と談笑する「フィッシャーマン・ジャパン」のアートディレクター安達日向子氏(右)


今でこそ浜のことも海のことも知り尽くし、饒舌に語れる安達だが、「最初は魚の種類なんてマグロくらいしか知らない無知な大学生だった」と笑う。しかし今は、デザイナー、水産業、潜水士、どのピースも欠かせないアイデンティティになっているという。それくらい深く水産業に惚れ込んでいるからこそ、8年もひたすら走り続けてこられたのだろう。


Photo by Kirin Sekito

さかなデザインが始動してからは、石巻以外の漁師とも話をする機会が増えた。漁師の世界では、ちょっと浜が変わるだけでも、魚種や漁港が変わるだけでも勝手が全然違ってくる。そんな色々な世界を見て、それぞれにとっていいものを形にしていくことは、今や安達のライフキャリアになりつつある。

「回遊魚みたいになりたいんです。その町ごとのおいしい魚と出会って、そこで活動してる人とも繋がって、いろんなことを自分の中で編集していきたい。そうやって自分がグルグル動き回ることで、目指したい未来のイメージやそこまでの道筋の解像度を、もっと上げていくことができたらいいなと思ってます」

様々な事例を自分の中にストックすることで、課題とソリューションをマッチングしやすくなる。そして、海の問題について一緒に考えながら解決していく仲間を全国に増やすこともできる。安達はそこまでの未来を見据えて、日本中の浜を巡る旅を思い描いている。


Photo by 古里裕美

 リアリティが繋ぐ人と人。水産業を変える仲間たち


実際に自分の目で見るからこそ感じられることがある。会って話をして初めて見えてくることがある。「リアリティ」は、私たちに色々なきっかけやインスピレーションを与えてくれる。それは、コロナ禍で自由に動けない私たちにとって、1番失われてしまったものと言えるかもしれない。

誰かのリアリティに共感し、立ちはだかる問題に一緒に向き合うことを重ねて、石巻を思う人たちは団結した。

石巻では今でも、地震や台風などの危機が迫ると「大丈夫か?」「これを準備しろ」「何かあったら家に来い」などの連絡が飛び交う。非常時にも周りの人をケアしながら、事前に対策をして、何かあったら助け合おうとする意識が格段に高いのだ。震災を経験した彼らはコロナ禍でもたくましく、厳しい状況にもめげず士気も高いという。

異色の専門スキルを持ったダイバーシティな仲間が、最終目的地を共有して同じ船に乗っている。その勢いは10年経っても衰えることなく、コロナ禍でも逆境をバネに、新しいチャレンジへと迷わず舵を切っている。彼らはこれからも絶えず進化し続け、水産業の未来を明るいものに変えていく。そんな石巻や日本各地の浜の姿を、私たちも目にできる日は、きっとそう遠くないはずだ。

前編はこちら→石巻から日本の水産業を変える。異業種とコラボする漁師ら10年の軌跡


Photo by Funny!!平井慶祐

文=水嶋奈津子

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