ビジネス

2021.03.10

「なぜ漁師が稼げないのか」に本気で向き合う。異色のクリエイターが石巻から発信するデザイン

漁師と談笑する「フィッシャーマン・ジャパン」のアートディレクター安達日向子氏(右)


新しい領域にも積極的に入り込み、水産業の本質的な部分から変えていこうとする。そこには、「自分が関わった企業さんには、どれだけ還元できたかにまで責任を持ちたい」という安達の強いこだわりがあった。

デザインは、パッケージを作り、WEBサイトを作り、PR戦略を立てて……、というところに終始することが多い。それによってどれだけの経済効果があったのか、世の中にどれだけのインパクトを与えたのか。そこまでの責任は問われないのが通例な中で、安達はそこに重きを置く。

「生産者のリアリティを見過ぎていて、お金がものすごく貴重なものに思えるんです。事業者さんから仕事をもらう時も、彼らが汗水垂らして稼いだお金を出してもらうのだと思うと緊張します。その金額に見合った結果を出さなきゃ、ちゃんと応えられるようにならなきゃっていうプレッシャーが1番大きいですね」

きっかけは潜水士。三方良しの海藻を守るプロジェクト


安達はリアリストでありながら、好奇心旺盛なチャレンジャーでもある。2019年、海洋調査やそのためのダイバー教育を手がける福田海洋企画との出会いがきっかけで、自ら潜水士の国家資格を取った。そして、石巻の海が長年抱えていた問題の一つ、藻場(海藻が生えている場所)の問題と向き合うことになった。

海藻は魚の餌や住処になり、二酸化炭素を吸収し、海を綺麗にしてくれる、海の生き物には欠かせない存在だ。そんな海藻を食べ尽くしてしまうウニが増えすぎて、石巻では藻場が劇的に減少してしまっていた。

海藻を守るために、潜水士が海を調査し、ウニを獲っていたが、権利の問題で獲ったウニを陸にあげることすらできず、八方塞がりだった。そこで安達らは、ウニを獲って海藻を移植し、さらには獲ったウニを利用して新しいビジネスを作ろうと動き出した。

ウニを陸上養殖できないか、加工して商品化できないかとアイデアを巡らせ、今は宮城県漁業協同組合とも協力しながら、様々な実験が進んでいる。もしここから新しいビジネスを生み出せれば、環境を守るだけでなく、漁師たちの新しい仕事や収入源にも繋がる。安達にとってはまさにドストライク、どうしても実現したいプロジェクトになった。


(c) フィッシャーマン・ジャパン

「デザイナー×水産業×潜水士」がアイデンティティ


何度も海に潜り、藻場がなくなってしまった海を目の当たりにした。魚一匹いないガランとした光景に完全な静寂。海藻が消えてしまった海の世界。そのリアリティが安達の思いを確固たるものにし、新しいステージへと導いた。

「それまでは『漁師さんより海のことを知ることはできないだろうな』っていう寂しさがどこかにあったんです。でも、自分も海に潜るようになって、海の中のことがもっと鮮明に見えるようになりました。資源管理の話にも詳しくなって、浜の人たちと話せる共通の話題も増えた。自分を媒介にもっとたくさんの人と繋がれるようになって自信になりました」
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文=水嶋奈津子

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